2,知子

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知子(ともこ)柏尾(かしお)のことを好きだったのかと聞かれたら、正直よく分からない。 腹いせに予約した美容院で、たまたま担当された柏尾の顔がタイプだった。 ちょうどその時の知子は、3年間関係を続けた山崎から「彼女ができた」と言われたばかりだった。 山崎とは高校三年生の時にSNSサイトで知り合った。 好きな漫画のコミュニティで話が合って、都内在住の山崎と知子の地元が同じであることがきっかけで話をするようになった。 スマホアプリで撮った写真(かなり加工したけど)を送ると、[かわいいね]と返信がきた。 「かわいい」と言われたことなんてあまりなかったから、嬉しくてアプリでかわいい写真を撮る練習を何度もした。 山崎の顔は45点で好みではなかったけど、「アーティストになる夢を叶えるために東京に住んでいる」という山崎をカッコいいと思った。 付き合ってはいなかったけど、好きという気持ちを伝えて、2〜3ヶ月に一度はLINEで電話をしたりした。 「私も東京に行く」と伝えると、山崎は「おーいいじゃん!」と言った。 「大学に進学しろ」という親の反対を押し切って、知子は高校卒業と同時に東京のネイルサロンに就職した。 両親が「頭の良い子になるように」と名付けた「知子」という名前とは裏腹に、知子は勉強が得意ではなかった。 高校の受験に失敗し、滑り止めの学校になんとか入学するも成績は真ん中よりも下だった。 クラスメイトのギャルのように派手に遊んでいるわけでもないし、素行が悪いわけでもない。 知子が一度だけ髪を染めたら、母親は知子の髪を掴んで「今すぐ戻しなさい」と怒鳴った。 スマホやゲームを取り上げられ、漫画を読む時間も制限付きにされ、「こんなことしているから成績が上がらないのよ」と何度も叱咤された。 だから知子は成績が上がらないことよりも、おしゃれをしたり髪を染めたり彼氏を作ったりして高校生活を楽しんでいるクラスメイトが羨ましかった。 テストの点数や成績を見てがっかりする親の顔を見ることにも疲れていたし、知子のことなど視界に入っていないようなクラスメイトのことも見返してやりたかった。 山崎のように東京に出て、一発逆転して皆んなを見返してやろうと思った。 自分には東京に素敵な彼氏がいて、その彼氏と成功する。そう思うことで、知子は劣等感と自尊心のバランスをなんとか支えていた。
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