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5
ふっと戻る意識。目に入る真っ白い天井と繋がれた点滴に、あぁ、やってしまったと溜め息が出た。
会議に参加していたところまでは記憶がある。多分そこで倒れてしまったのだろう。倒れてしまうなんて……また俺が病弱であるというイメージが強くなってしまう。
思えば胃のもたれもそうだし、乙女さんの事が心配であまり眠れていなかった。
「――乙女さん……」
「はぁい」
へ?
一瞬幻聴かと思ったが、確かに今乙女さんの声がした。
キョロキョロと見回すが、カーテンで仕切られていて確認する事はできない。
だからもういちど。
「八坂 乙女さん……ですか?」
「はいはい。そうですよ。紅葉くん目が覚めたのね? 痛い所とか気持ち悪かったりはしない?」
「――は、はい。大丈夫です……っ。えっと、どうして……」
乙女さんは入院しているはずで見舞客ではない、と思う。だから俺たちは同室? でも男女で同じ部屋にいる事はあり得ない。じゃあどうして?
俺の混乱を察したように乙女さんが説明してくれた。
「今ベッドが空いてなくて、空くまでの間紅葉くんをここにおいてほしいって看護師さんにお願いされたの。私も同室のみなさんも反対なんかしなかったわ。可愛い孫みたいな男の子だし、紅葉くんはいい子だもの」
「乙女ちゃん、そろそろ私たちも紹介してよ」
と同室のあちこちから声が上がる。
仕切られたカーテンを開け、そこから現れたおばあさんたちみんなが俺の事を優し気な笑顔で見ていた。
「あらあら、さっきも思ったけど起きてるとますますイケメンさんね」
と誰かが言えば「本当にねー」と顔を見合わせ笑いあっている。
まるで可愛らしい少女たちに囲まれたような錯覚を起こし、ドギマギとしてしまった。
それがまたおばあさんたちにうけたのか、キャーキャーと騒がしくなる。
すぐに看護師がとんできて注意されるが「ごめんなさいね」と肩をすぼめ反省の色を見せるが、看護師が立ち去ると口を押さえおかしそうに笑った。
彼女たちの勢いにびっくりしたけど、久しぶりに会えた乙女さんが思ったより元気そうで少しだけほっとした。
結局俺は男性部屋へと移されてすぐに退院となったわけだけど、それから俺は乙女さんたちを見舞う為に毎日病室を訪れていた。
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