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1 ①
最近の俺は少しだけ早く家を出るようにしていた。最近と言ってもここひと月ほどの事だけど、引っ越し先で見つけた近所にある弁当屋で、昼めし用のおにぎりを買うのだ。
おにぎりをひとつかふたつ、それが俺の昼めしだ。それだけ? と思われるかもしれないが、これは昼に限った話ではなく朝も夜も似たようなもので、よく言えば極端に燃費がいい。
世間一般で普通だと考える量は俺には多くて、それだけ食べてしまうとかえって体調を崩してしまう。
なのに周囲からは、成長期はとっくに過ぎてはいても成人男性としてはかなり少ないと思われ、それが俺にとってのベストなのだといくら説明しても分かっては貰えないのだ。
俺の小食は今に始まった話ではない。小さい頃からだし、物心つく頃には亡くなっていた父親がそうだったというので、やはり体質なのだ。
写真の中の父もほっそりとしていて、青白い顔で笑っている。それでも母曰く、「その頃が一番元気だったわ」との事。確かに俺の目から見ても『元気』に見える。だけど他人から見るととても弱って見えるのだそうだ。
俺の場合、小食に加えて食に拘りがない。父は小食な上に拘りもあり母も苦労したそうだけど、その辺の違いは個性?
強いて言えば、主食と副菜を一緒に取れる『おにぎり』や『サンドイッチ』が好ましいくらいか。
おまけに片手でぱくつきながら他の事ができるのだから、控え目に言って『最高』だ。
――と、そんな感じで俺は父親譲りの体質によって小食なだけなのだ。ひょろりと細い身体と少し顔色が悪く見える真っ白な肌では説得力がないかもしれないけど、俺はこう見えてわりと健康なのだ。父親が亡くなったのだって不幸な事故によるもので、病気とは無関係だ。
これが女の子だったなら誰も何も言わないのだろうけど、俺の細さは周りを心配させてしまう。
そんなだからある事をきっかけに、俺は追い込まれてしまう事になった。
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