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会場に着くとシエンナが、両親より口煩く言い付けてくる。
「性懲りも無く飛びつくんじゃないわよ? いい女っていうのはね……相手に足を運ばせて相手に話掛けさせるの。そうしてあの頃みたく壁際に立ってなさいよ?」
「うん、わかったわ」
「けど、キョロキョロとリサーチする悪癖を出してはダメ。優雅に余裕を持って、狙った男性と目を合わせるの。相手がアクションを起こそうとした時が大切! ワザと逸らすの、気高い女を気取るの、挑発するのよ!?」
「わかったわよぅ」
馬車で散々聞かされたので、もはやシエンナの言葉はエミリーの耳をすり抜けていく。
まだ何やら言っているが、会場の雑音と大差ないなんて考えている時。
遠くにいるルーカスと何となくだが目が合っている気がした。
彼の唇が開こうとして。集中しながら凝視すると視界が何者かに遮られ、エミリーはその人物を見上げた。
「アーロ様……」
「その、エミリー嬢、隣り良いかな?」
「え、ええ。どうぞ」
それを見たシエンナが気を利かせるよう人々の波に消えて行く。
「心配したよ、あれから夜会に参加しなかっただろう?」
「ええ……」
切実な表情を前に、「元気をチャージしようと本を読み漁り、結局は甘くとろけるようなシーンにキャアキャアしておりました」などと言えるような雰囲気ではないことはわかる。
「申し訳なかった。君を傷つけたくなくて口にした言葉が、結局は君を傷つけてしまった……」
「え、あ、いえ……あのっ」
傷つくどころか「絶対に諦めない!」と火がついたのだが。
紳士的に頭を僅かに下げるアーロにそんなことを言ったら……。
せっかく仲良くなれたお喋り仲間に、それこそ変わり者だと軽蔑の眼差しを向けられるかもしれない。
エミリーは何も言えなくなってしまった。
すると畏まった声で、
「その、俺は今から狡いことを君に言おうと思う」
「はい?」
目が泳ぎ、言葉を詰まらせ、何だか言い訳をする人間のような話し方だ。
「あの、アーロ様?」
心配そうな声で促され、意を決して真剣な表情のアーロが、
「君の傷ついてしまった心を癒す役目が欲しい」
「……と、言いますと?」
きょとんとしながらも遠回しではなく直接的な言葉を貰えれば意味もわかるのだけれど、と知識を全く生かせない経験値皆無なエミリー。
アーロは苦笑しながらストレートに気持ちを伝えなければ駄目か、と口を開こうとした時だった。
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