夢見るご令嬢は妥協しない

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そうして再び別の夜会でアーロに声を掛けられた。 「やあ、エミリー嬢。ルーカスならまだ来ていないようだ」 「え、ほんと? ああっ、あの方々も居ない!」 (ルーカス様に迎えに来るよう頼んだのかもしれない。もしくは待ち合わせて来るつもりなのかも) エミリーはちょっぴり面白くなかった。 「だったらアイツが来るまで、また少し話でも?」 「……はい」 落ち込んだままではあったが、アーロとの会話は悪くないと思う。 流行りのお菓子や観劇、アクセサリーに外国のドレスの型のことまで詳しくて、エミリーを退屈させない気遣いが見えるのだから。 しかし徐々に和やかな気分にさせて貰ったエミリーだが。今日のこの夜会でショッキングなことを偶然聞いてしまうことになる。 「きゃあ、ルーカス様、今日も素敵よ」 「ちょっと押さないでよ!」 「あら仕方ないでしょう? 貴女と違って出るところが出ているのだから」 何かのパレードでもしているのだろうか。 今日に限って更に女性を侍らせながらルーカスが登場した。 エミリーはそれはもうつまらなさそうな口振りでアーロに、 「何あれ、あんな派手な護衛見たことないわ」 「面白い表現方法だ。君も狩りに参加しなくて良いのかい?」 「跳ね返されて終わりだと思う。少しは仲良くなれたと思ったのに……また距離がある気がします」 「へえ……」 アーロは鋭いなと少し関心をした。 そして提案とばかりにエミリーへこっそりと耳打ちをする。 「だったら俺と仲睦まじい振りをして、アイツの気を惹いたらどう?」 はい? と、それを丁重に断った。 「そのようなこと、不誠実ですから」 「君は……優しいな」 複雑な表情でアーロが笑った。 そこへルーカスの腕にぶら下がるいつもの女性たちの一人が、エミリーに大層優越感たっぷりの表情で声をかける。 「あらあら、お似合いのお二人じゃない。御機嫌よう」 それを華麗に無視をしてルーカスの方へ元気いっぱいに挨拶をするので、「あなたねぇ……」とその表情を強ばらせた。 「御機嫌よう、ルーカス様! 今日も今日とてお慕いしております。そろそろ私とお付き合いをしてみては如何でしょうか?」 「やあエミリー嬢、今日も今日とてお断りするよ」 「本日も五つばかりのご質問にお答えしていただきたく」 「……いいよ、君と交わしてしまった約束だからね」 腕を優しく振りほどいて、身軽になったルーカスがアーロの反対側に座って足を組んだ。 そうすれば、 「では俺はお邪魔なようだから、美しいレディーたちのエスコートを代わりにするとしよう」 「んもう、仕方ないわね。アーロで我慢するわ」 拗ねた表情の女性たちをアーロが攫っていく。 エミリーは胸中、彼に感謝をしながら舞い上がっていた。 (アーロ様、ありがとうございます! このご恩は決して忘れませんっ) 「さて、今日はどんなことを聞くつもり?」 ルーカスが相変わらず隙のない笑みを浮かべている。むしろ何故かいつもより不自然なほどに作られた表情のようで。 それだからエミリーは、うっかりと口を滑らせてしまった。 「あまり思っていることを口にするのは良くないね。トラブルの元になりかねない」と言われていたというのに……。 「あの、疲れませんか?」
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