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「今、何処にいるんだよ?」
「はい、こちらガガーリン少佐、只今、月面着陸いたしました!ここの重力は地球の六分の一でありまして嗚呼、地球は青かった!」どうやらアポロ11号の月面着陸とユーリイ・ガガーリンの宇宙飛行とを混同しているらしい。
「半世紀以上前にタイプスリップした訳じゃあるまいし何、言ってるんだよ?お前、完全に酔ってるな!」
「確かにあたしは一杯機嫌だよ~ん!」
「なあ、何処で飲んでるんだよ!」
「う~んとねえ」と言った所で電話が切れた。
「何で切るのよ!」と美香。聖也にスマホの画面上の赤い受話器ボタンをタップされたのだ。
「美香さんが口を滑らすに違いないって思ったもんですから。どう見たって一杯機嫌どころの酔い方じゃないから」
「滑らしたら悪いの?」
「悪いですよ。そんな判断も出来ない位、酔ってるんだから」
「あたし、そんなに酔ってる?」
「正体なくね。さあ、だからそろそろ僕の膝枕でおねんねしましょうね」
「は~い!」美香はソファの上で聖也の言う通りにすると、直ぐにうとうとし出し、ものの2、3分で自分のスマホからまた呼び鈴が鳴っているのに呆気なく鼾を掻き出した。
聖也は呼び鈴が鳴り終わって着信音が鳴った後、留守電メッセージを再生してみた。
「何で切るんだよ。いつ帰って来るんだよ。俺、戸締りして寝ちゃうよ。頼むから連絡してくれよ」
「はいはい、連絡してあげましょう」聖也は美香のスマホでメールを打った。「間違えて受話器ボタン押しちゃった。それ位、だらしなく友達の家で酔いつぶれちゃった。今夜は寝泊まりするから帰れない。ごめんなさい・m(_ _)m」
「それにしても泥酔してると不思議なユーモア精神を発揮するものなのか知らないけど、よくあんな冗談が咄嗟に出るよなあ。一体、何世代なんだよ、この女は」と聖也はメールを打った後も呆れていた。「でも、それが幸いして旨いこと誤魔化せたな」と寝顔に呟く。彼はリピートを勝ち取ろうとするホスト。営業終了後、酔いつぶらせた後の責任を取ると言ってまだ起きない美香をおんぶして運んでマイカーに乗せ、自宅マンションの部屋まで運び込んだ。
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