第246話 もう二度とは

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「クロ……?」  セリスは小首を傾げつつ、鉄扉へ向かい扉を開けてやると、すかさず黒髪の少年が押し入りセリスの両肩を掴んで揺さぶった。 「なんでだ!? なんでセリス!! お前、〝処女〟、無くす、のか!?」 「ちょっ……、クロ。落ち着きなさいってば」  セリスは苦笑し制止するが、反対にクロは今にも泣きそうな顔で、すがるようにセリスに叫ぶ。 「ダメだダメだダメだ! 〝処女〟貰う、の、オレだ! オレ、セリス好きだ! セリスの大事なもの、欲しい! オレ、も、〝処女〟、あげる!」 「こ、こらっ! 変なこと言わないの」  セリスがほんの少し頬を赤らめて咎めた。しかしクロは止まらない。一方アラガは「もうやめて……」と恥ずかしさから頭を抱え、その左腕のなかでブリちゃんが大笑いしていた。 「変なこと、言ってない!! オレ、本気だ!!」 「わかった! わかったから落ち着きなさいな。私がそう簡単に〝処女〟をあげるわけないでしょう?」 「え、ほんとう、か?」  あっさりと、クロは目を白黒させたまま動かなくなった。セリスはくすくすと微笑みながら、彼のボサボサの頭を撫でた。   「本当よ。私が負けたこと、あったかしら? それに――アラガが私を守ってくれるもの」 「え?」  当然名指しで呼ばれたアラガもまた目を白黒させてしまう。  そんな彼を肩越しに見やり、セリスはウィンクする。 「お願い? ね?」 「……え、あ、まぁ」  かわいらしくも色っぽいセリスのお願いに、アラガはまともに目を合わせることができずに気の抜けた返事をするので精一杯だった。 (ンだよアラガよォ? 照れてんのカ? キシシ)  ――う、うっせぇな!! 「おいアラガッ!!」 「は、はいっ!」  意識内での茶化しに反抗していた最中に突然名指しで怒鳴られたアラガは思わず敬語で応えてしまう。  そんなヘタレビビりのアラガを怒鳴りつけたのは、クロだった。 「アラガ!! セリス、何かあったら、ゆるさないぞ!! しっかり守れコシヌケ!!」 「こ、腰抜けだぁ? また言いやがったなそれ……!」  アラガのこめかみと、口角がひくつき始める。  本人も自分が腰抜けというかヘタレのビビりであるのはこれまでの半生において自覚はしている。特にタルタロスにおいてで。  だが、ほとんど初対面の他人に改めて言われるのは……我慢できないものがあるのだ。 「なんだコシヌケ! 〝処女〟欲しがらないヤツ、コシヌケだぞ!!」   「もうやめなさいクロ。いったいどうしたの?」  セリスはたしなめるが、クロはむすっとしたままだ。昨日、アラガと友好的な関係を築けたばかりなのに、どうもアラガを敵視しているようだった。 「もしかして、貴方……」  セリスは、いち早くクロのアラガへの敵愾心の理由に気づき、はっとする。  だが一方で、アラガがすっと立ち上がり、ずんずんとセリスとクロのもとまで歩み寄る。  そしてクロの真正面に立つと、彼を見下ろしたまま――彼の胸倉を掴んだ。
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