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「あなたたちは酷い人だ。異形と化したとはいえ子供に手をあげるとは。大人としてどうかなとは……思わないのですかね?」
「……」
モロクの嘲りに応えず、神那はマチェットと拳銃を装甲服に収納し、新たにペネトレイターを構えて照準を向ける。
ペネトレイターが瞬時に変形し、一撃必殺の威力を持つ電磁弾を発射する形態となる。
すかさず、モロクの周りの小悪魔たちがいつでも盾になるよう身構える。
「……っ!」
神那は、引き金を引かなかった。その様を見てモロクがほくそ笑む。
「ふふふ、お優しいことだ。さて、神那少佐。せっかくお一人で来てくださったんだ。すこし、お話しませんか?」
「話などない」
「まぁ、そう言わず。お話というより、そうですね……〝勧誘〟と言いましょうか。どうです、神那少佐――今からでも『リベリオルン』に参加しませんか?」
「……なに?」
突飛ともいえるモロクの提案。リベリオルンの勧誘。それはすなわち、自分たちの仲間になれと言っている。
「ご存じかもしれませんが、私たち『リベリオルン教会』は、〝神なき宗教〟です。人間をより遥かな高みへと昇華させるのが我々の教義です。
人間そのものを、この世界の理や『神』をも超越した存在にすることで真の自由と平等を得る……つまるところ、我々にとって『神』は邪魔者なのです」
「……またくだらない説法か。二〇年前の貴様らの前身――『HB向福研究会』のときもそうだが、くだらん説法など覚える価値すらない。『神への貢ぎ物』とほざいて人を殺すカルトと大して変わらない」
「いえいえ、大違いですよ。彼ら『HB向福研究会』の目的は、神を超える人間を創造すること。そのためには〝良心〟を捨てさせる必要があったのですよ。人を殺すことで、神の庇護を超えた新人類へと到達する人間を創るためにね」
「……なにが違う。ただの狂った人殺し集団だ」
「では、要約だけしましょう。私たち『リベリオルン』とあなたの目的は同じだ……と言っているのですよ」
モロクは神那を平手で指す。
「『リベリオルン』の私たちは、神を超えたい。〝神殺し〟のあなたは、神を殺したい。どうでしょう? 我々の目的と、あなたの思想……シンパシーを得るところはあるでしょう?」
「ない」
「そうですか。ですが、今のあなたには思想はあったとしても、その先の〝理想〟はない。
神をすべて殺し尽くしたとしても、その先にあなたは何を見出しているのです? なにを目指して戦うというのです? ただただ虚しいだけじゃないですか」
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