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「わっ!? なぁにオジサマぁ? いきなり人の頭に話しかけてこないでよぅ、びっくりしちゃうから!」
『いい加減慣れよ、〝オリジン〟たるものな」
「いきなり頭のなかで厳つい声が響くなんて誰も慣れるわけないってば。……で、なぁに?」
『〝協定〟の日取りが決まった』
「……へぇ? オーディンとシヴァとテスカトリポカがこっちに来て『仲良くオブリビヲを倒しましょ?』って話し合いだっけ? そ、おめでと」
『……興味がないか』
ゼウスの声色には若干の怒りというよりも多大な呆れの方が混ざっていた。エロースはそんな彼の気持ちなどお構いなしに「まぁね」と肯定した。
「ゼウスのオジサマがいるもんね。オジサマはわたしを次の〝支配者〟として育てたいって思ってるだろうけど、わたしには〝身に余るコウエイ〟ってやつだもん。わたしはオジサマみたいに〝未来〟を考えたり、あのアポロンみたいに〝未来〟を見れないから」
『アポロンか……あの男は見つかったか?』
「見つかるわけないじゃん。こーんなだだっぴろい『アルカディア』で。しかもあいつ〝予見〟できるでしょ? わたしが部下をつかって探させても、それを察知して逃げちゃうもん。どうやって捕まえるのって話。てか、わたし的には二度と会いたくない顔だし、あれ!」
『そうだったな。お主はあれが嫌いだったな』
「大っ嫌い。いっつもうさんくさいにやけ顔でわたしのこと馬鹿にしてきたし。てかやめない? あいつのこの話」
『よかろう。では、〝協定〟の話に戻ろう』
「えー、だからそんなの興味ないって言ってんじゃ――」
『明日だ。明日の正午過ぎに我が城で会談を行う。お主にも参加してもらうぞ、エロース』
「え」
有無を言わさぬゼウスの〝命令〟にエロースは呆然とする。
「明日? 明日って言った? しかもわたしも出るの?」
『左様。では明日の正午までに我が城に来い。ではな』
「え、ちょっとオジサマ!? オジサマってば!?」
エロースは何度も呼ぶが、ゼウスからの応答は無かった。
「…………言いたいことだけ言って切りやがった、あの全裸ジジイ。わたしが他国の〝オリジン〟との話し合いに出る? は~~? めんどくさ」
荒い口調で悪態をつき、エロースは溜息をついた。彼女のなかに苛立ちがふつふつと沸き上がる。
この苛立ちをどうやって処理するか。何かを叩いて壊し、あるいはシロに八つ当たりをするか。
「いやダメダメダメ。シロにこれ以上はダメだぞ、わたし♪ 他の方法、他の方法だよ~?」
かわいい口調の独り言で自らの苛立ちを抑制しようとするが、やはり苛立ちは収まらない。他の方法で苛立ちを抑えようと考えるエロースは、すぐにその方法を閃いた。
「決めた。明日の午前中だ。明日やろう!」
ゼウスからの〝神託〟がくる前に考えていたこと。
それを明日実行するのだ。
「あいつをつかってセリスを犯して、アラガもぶっ殺そう。めちゃくちゃに。もうめちゃくちゃに。あはは、あはははははははは!」
欄干にもたれかかりながら、エロースはひとり、狂ったように笑う。
圧倒的な〝力〟による、圧倒的な蹂躙の光景を想像しながら。
これが、彼女の〝転落〟の始まりだった。
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