第246話 もう二度とは

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 そしてここは、〝待機室〟。  アラガがセリスとはじめて会った石造りの牢獄である。〝待機室〟と記したが中には何もない。ただ、本当に座して待つか〝出場〟までの間に眠るだけの部屋だ。  しかしこのような簡素過ぎる部屋でも、与えられるだけまだマシである。  他の名もなき〝剣闘士〟などは廊下に雑魚寝したり、せまい部屋に脚を伸ばす余裕もなくタコ詰めにされるなど、その扱いは酷いものだ。  つまりこの〝待機室〟とは基本的にはセリスのために与えられた自室であり、あるいは、『コロシアム』の支配者エロースにとって〝下手なトラブルで死んでもらっては困る者〟が押し込められる部屋なのだ。  そういう点ではここにいる彼ら二人。  セリスと、エロースに悪い意味で興味を持たれた〝剣闘士〟アラガは特別な存在だと言えよう。 「俺が……セリスさんと一緒に戦う……?」  アラガは〝待機室〟の壁に背を預け座り込んだまま、セリスを驚きの表情で見上げた。   「そう。私も驚いているんだけど……私と貴方で一緒に戦うの」  セリスは頬杖をついて眉をへの字にして困ったような顔を浮かべていた。 「本当に突然だったのよ。私もついさっき知らされたばかりでね。それにあんな〝謳い文句〟で――いえ、なんでもないわ」  なんでもない、と言ってかぶりを振ったセリスであったが、その美貌に一瞬の陰りがあったのをアラガは見逃さなかった。 「それより、アラガ。心の準備はいいかしら?」 「……いい、って言ったら嘘になるけどな。いつ、やるんだ?」 「よ。すぐにお呼びがかかるでしょうよ」 「これからって……」  自身の意思など無関係に、あまりに唐突な〝剣闘士〟としての初陣が決まったことに戸惑うアラガだったが、突然、  ドンドンドン!! ドンドン! ドドドドン!  待機室の鉄扉が無造作に叩かれた。遠慮も何もない、必死さと焦りが伝わる叩き方であった。    ――呼び出しか?  身構えるアラガだったが、とすぐに分かった。 「セリス! セリス! オレ、だ! 開けて、くれ!」  片言の喋り方の少年の声――クロだ。  
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