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『みんな~、おっはよぉ~~!! 今日も来てくれてありがとぉ~♪』
突如、『コロシアム』内に響く少女の猫撫で声。その声にアラガは、聞き覚えがあった。
「エロース……!」
ゼウスの城にいた、『コロシアム』の主。人を馬鹿にした態度をとる、少女の姿をした〝オリジン〟。
おそらく、というより確実に自身の敵側の存在の登場に、アラガは身構える。
『さてさて~! 今日はねぇ、みんなも知っての通りの悲しくて楽しいお知らせがありま~す! 今日はねぇ、今まで無敗の強さだった「セリス」ちゃんがなんとぉ~~……〝処女〟を奪われちゃいま~す!』
「「「うぉおおおおおおーーーーーーーーーーーー!!」」」
観客が一気に湧きたち、歓声が巨大な渦となって巻き起こる。アラガはその迫力に気圧される。しかし、
「こいつら……クソだ。馬鹿とかそんなもんじゃねぇ、最低だ」
エロースも、この歓声の主たちも、いかに最低なのかを認識した。
「……これが、エロースに支配された『人間』たちなのよ」
日ごろから下卑た観衆の注目の的になっているセリスにとって、彼らの反応などは当然のように映っていた。
だが同時に、彼女はその理由を知っていた。
「〝オリジン〟エロースは、存在するだけで『アルカディア』に属する『人間』の理性と野性を操る。野性を増幅させ、『人間』を動物と化す。動物と化した者は、自分たちに餌や快楽を与えてくれる者のペットとなり、自然と懐き、信奉するようになる」
「それじゃ、こいつらはエロースのせいで……?」
「ええ。究極の支配者の素質とは、国民のペット化と言ってもいい。エロースは『コロシアム』のような施設や〝歓楽街〟にある風俗店などを用いて、退屈を極める人々に〝無償〟で、野性を満たすサディズムとマゾヒズムとエロティシズムを提供している。その結果は……見ての通りよ」
「……!」
国民たちのペット化。そのための『コロシアム』などの“歓楽街”と呼ばれる地区。それらを公共サービスとして〝無償〟で国民に提供し、代わりに彼らをペット化して人間性を貶め、国家に従順なペットとする……それがゼウスより与えられたエロースの“役割”だ。
(へェ? いい世界じゃねぇかヨ? 欲望のままに生きられるってカ? なァ、アラガ?)
それは皮肉かそれとも感心か。ブリちゃんの声が意識内に響く。アラガは彼の問いに対し意識内ではなく、声で応えた。
「……良くねぇよ。アンタの言う〝欲望〟ってのは、誰かに与えられるもんじゃねぇんだろ? 自分の心の叫びなんだろ?」
(……あァ、合格だ。ペットなんざ、オレ様はゴメンだゼ。ケッ)
「俺もだよ。もう命令を聞くだけの人形も、待ってるだけの防衛者もごめんだ。だから――」
(だから?)
「エロースもゼウスもぶっ殺す。あと出来たら、こんなふざけた世界もぶっ壊す。そんで、おさらばしよう」
(へェ? 大きく出たじゃねぇかヨ、アラガ)
ブリちゃんは皮肉ではなく、感心したようだった。
「ああ。〝わけわかんねぇ奴らはぶっ殺す〟――『リユニオン』で決めた俺たちのスローガンだろ」
アラガの心の中には、人間の意思を踏みつぶすかのようなこの社会システムに、言いようのない〝欲望〟を覚えていた。
『……なので~? 今日はセリスちゃんの〝引退戦〟なの~♪ さてさて~、ではそんな大役を担った〝竿役〟を紹介しちゃいま~す!』
アラガの〝怒り〟など露知らず、エロースは喜々とした様子で……その男を競技場へと招いた。
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