第105話 死刑囚たち

8/8
前へ
/1570ページ
次へ
 ガキィッッ!  ところが、東郷寺の首に叩きつけた三本の爪が、へし折れる。まるで、堅い鉄塊に叩きつけられたか細い木の棒のように、たやすく凶器の爪がへし折れたのだ。  折れた爪はくるくると弧を描きながら吹っ飛び、偶然にも一匹の小悪魔の脳天に突き刺さる。 「無駄だ」  爪をへし折られた小悪魔に弾丸を撃ちこんで倒す。そして再び、ウル―ドに迫る敵のみを優先的に迎撃する。自らの危険など、眼中に入れず。  ――東郷寺(とうごうじ)徹矢(てつや)。  年齢は五六歳。 1ab3acad-f4ba-47b7-af68-0a76f88eea55  罪状は、脅迫、誘拐、殺人ほか余罪多数。  元・警察機動隊だった過去をもつ。だが二〇年前の〝とある事件〟をきっかけとして警察を退職。さらには既婚者だった彼は妻と離婚し、当時まだ年幼い娘と生後三か月の息子の二人の親権を妻にゆずった。  世捨て人となった彼は、それから数多くの殺人を犯した。  主な殺害対象は、政府関係者、法務官、大手企業重役から反社会組織勢力まで多岐にわたる。  数多の殺傷を繰り返した彼の目的は――正義。  日本帝国に蔓延る〝悪〟の殲滅。  独自の情報網を駆使して、汚職政治家、人の尊厳を踏みにじる権力者、裏社会に潜む重犯罪者など、日本の法律では罰しきれず、法の網を逃れて悪事を働く悪人のみをターゲットとし、その悉くを彼の正義において抹殺してきた。  殺人犯ではあるものの、民衆のなかには彼を〝正義の体現者〟と英雄視する者が多くいる。今現在も彼の釈放を求めるデモ活動が行われているが、本人はさして興味はなさそうだった。  そんな彼の『SIN』が司るは――傲慢。  自らの肉体を不壊・不可侵の〝無敵〟の盾とする能力。いかなる攻撃も通さず、いかなる衝撃からも自らを守り切る、自己保存に特化した能力である。 「リロード終わりー。おじさん、ごめんねだけど引き続き、肉壁よろしくー」 「ああ」  再び、ウルードが銃を構えて敵を正確無比に撃ちぬき始める。常人離れした集中力で正確無比の射撃手を務めるウルードと、無敵の肉体で彼女の壁となる東郷寺のコンビは、この隊のなかでも抜群であった。    しかしながら、この東郷寺について特筆すべきはそれだけではない。   「ってゆーかさ、おじさんってカミナ隊長とどういう関係なの? さっきカミナ隊長に言ってたこと、ちょっと気になる。昔馴染って感じ?」 「そんなところだ」 「ふぅん、死刑囚とハイぺリオルの軍人が、ねー。ま、どーでもいいけどね。詮索すんのめんどいし」 「……殊勝だ。知って面白い話ではない」  東郷寺は、ふと平仲院へと視線をうつす。  かつての、が突入した……悪魔の巣窟へと。  ――今度こそ思う存分やれ、神那。  東郷寺 徹矢。  二〇年前……は、心の中でそう願うのだった。  
/1570ページ

最初のコメントを投稿しよう!

292人が本棚に入れています
本棚に追加