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第106話 人を超えた力
平仲院内部へと突入した神那を待っていたのは、やはり小悪魔の襲撃だった。
床はもちろん、天井からもさながらコウモリのように逆さに張り付き、神那へと純粋な敵意とともに爪と牙を剥きだしている。
外にいるモノたちより、はるかに多い。おそらく、この平仲院で暮らしていた子供たちのほとんどが異形と化した……そう考えるのが妥当な数だった。
「……外道が」
悪意にさらされ弄ばれた哀れな異形たちを前にし、神那は毒づく。そして怯むことなく、銃と徒手空拳だけで蹴散らし、突き進む。極力手加減し、腕や足を撃ちぬき、骨を砕き、戦闘能力を奪うのみに留めながら。
目指すは、モロク。奴を殺せば、小悪魔たちが元の人間に戻ると信じて。
――近いな。
モロクの居場所は、神那の第六感が〝ドス黒い気配〟として教えてくれている。
神那は、咄嗟の小回りが利かない小銃を背中にマウントし、腰のホルスターから拳銃を引き抜く。右手で拳銃を構え、左手でマチェットを握る。
致死の徒手空拳を得意とする彼にとって、武器を持つことは〝手加減〟であった。
神那はエントランスを突き抜け、廊下を駆け抜ける。その間にも小悪魔の襲撃は続く。
「「キシァアアアーーーーーーー!!」」
突然、天井から小悪魔たちがこちら目がけて降ってくる。
「ふんッ!!」
一瞬立ち止まり、右足を一歩踏み出すような仕草をとる。その瞬間、彼の尋常ではない脚力によって床のコンクリートが砕け、爆ぜるように隆起する。
さながら床から草木が何本も伸びるように、突然現れたコンクリートの杭が天井からの小悪魔たちを吹き飛ばす。
残った小悪魔たちは、隆起した壁を盾にしながら弾丸を撃って怯ませ、脳天に蹴りをかまして意識を奪う。
そして再び、前へ前へと突き進む。
――近づいている。
進むたびに、気配が濃くなっていくのを感じる。
廊下を駆けていくと、大きな広間に出る。天井が高く、柱もなく、フローリング材が敷かれ、正面には講壇がある。さながら学校の『体育館』に似た内装であった。
「お早いお着きで。神那少佐」
そこで、モロクは待ち受けていた。
周囲に彼曰く……多くの〝子供たち〟を侍らせながら。
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