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伝説は続くよ、どこまでも
現在も絶賛伝説を量産中の我が母ではあるが、思えば母の母、オオばばもそれに負けず劣らず、輪をかけてワイルドだった。
趣味の畑の網に引っかかってしまったヒヨドリ(もちろん、お亡くなりになっている)を、「汁物にでもすればいい」と手渡してきたのが「ヒヨドリ伝説」。
野性味にあふれすぎだろう、オオばばよ。
「ありがとう、おばあちゃん」
と震え声で受け取って、庭の椿の下に埋めてあげたのは、言うまでもない。
そういえばあのとき、裏口に呼び出されたのは私だった。
家には母もいたのに、なぜ、わざわざ。
ショートケーキのお礼だろうか。
野良猫が恩返しに、玄関先にネズミを置いていくような感じ?
「コッカースパニエルに生ブロッコリー食べられる伝説」は……。
祖母というより、「ジョン」と名付けられた、そのスパニエルが伝説かもしれない。
とっても食べることが好きな犬で(食い意地が張っているともいう)、数多く引き起こした食にまつわる事件のひとつが、「生ブロッコリー伝説」である。
祖母が”ごんぎつね”のように置いていったブロッコリーと大根(畑で収穫したて、もちろん生)を食べてしまって、母と祖母の抗争のきっかけを作ってしまったのだ。
「野菜あげたのに、なぜお礼を言わないのだ」
「いや、もらってない」
「いや、あげた。ブロッコリーと大根を置いといた」
「知らない。とうとう耄碌したんじゃない」
「なんだと!この親不孝者がっ」
途中から、野菜そっちのけの悪口合戦になったのは、通常営業。
そして、この無益な争いを終結させた功労者は!
それは見事な、パンダかな?と思うような青々としたウ〇チをしたジョンだった!
きっかけを作ったのも、ジョンだったけれど。
「おばあちゃん、野菜はどこに置いといてくれたの?」
「裏口のたたきのところだよ」
「昨日、この犬そこで寝てたよ」
「……ジョン、おまえだったのか……」
ごんぎつねを彷彿とさせるセリフを母がもらして、無益な母娘ゲンカが終了した。
ジョンは特にやらかしてくれた犬だったけれど、思えば、代々うちで飼っていた犬たちは、みんなどこかおかしかった。
そのなかで、栄えある「おかしい犬グランプリ」第一位に輝くのは。
とある秋の夕暮れ。
「あたし、このコの家知ってるのよ!」
得意げな顔をして、おつかいから帰ってきた母が連れているのは、交差点付近をうろついていたという柴犬。
「迷子になっちゃってかわいそうでしょ。ほら、一緒に行くよ」
と言う母に連れられて、とあるお宅に突撃すると。
「うちのコはいますよ?」
不思議そうな顔をする奥様の後ろでシッポを振っているのは、確かに別の柴犬だ。
途方に暮れた私たち母娘はその日、近所中の柴犬を飼っているおうち巡りをしたけれど、とうとう、どこのコかわからずじまい。
仕方がないので保健所、警察に届け出たのち、めでたくうちのコになったものの、最後まで名前も覚えなければ、懐きもしなかった。
ご飯のとき以外は寄ってもこないし、散歩は好き勝手なところに行こうとする。
飼い主というより、飼育員になったような気分。
そして、学んだことは。
柴犬は、ぱっと見同じ顔をしてるから気をつけよう!だろうか。
そんな話にキャラキャラ笑っていた姪っ子だが、最近はよく電話をかけてくる。
「はい~。なんかあった?」
「ないよ!おばちゃん。”なんそうさとみはっけんでん”ってさ」
どうやら、ただ退屈しているだけらしい。
「渋いタイトル知ってるね」
「先生が話してくれたんだよ。六人も仲間を見つけなきゃいけないから、大変だよね!」
「六?八犬伝だよ?」
「え?見つけるから、はっけんでんなんでしょ?」
「まさか、発見伝?!」
国際基督教大学の血が、とうとう覚醒してしまったのかっ?!
それにしても、六はどこから持ってきた数字なんだろう。
このままでは、姪っ子のエレジーになってしまうではないかっ。
エレジーというより、新喜劇って感じだけど。
「それでね、おばちゃん」
長々と続く姪っ子の電話に、どうも最近、母みを感じる。
そういえば、前に実家に呼び出されたときには、すでにコンビが結成されているようだった。
「あんた、なにその恰好。オバサンみたいでみっともない」
おばあさんから「オバサン」呼ばわりされる娘が、ここにいますよ。
「おばあちゃん。おばちゃんはオバサンなんだから、いいんだよ」
かばおうとして、よけいに精神を削ってくる姪っ子が、ここにいますよ。
「それに太った?いい、姪っ子ちゃん。おばちゃんがこれ以上太ったら歌うんだよ。で~ぶ~で~ぶ~百貫で~ぶ~」
「ちょ、教育上よろしくないからっ!」
差別用語満載の歌を歌う母を止めたけれど、その隣で姪っ子はけろっとしている。
「慣れてるから大丈夫だよ、おばちゃん。それにおばちゃんも、こないだお雛様の歌、教えてくれたじゃん!灯をつけたら燃えちゃった~、お花をあげたら枯れちゃった~」
ああ、はい。教えましたね。
申し訳ありませんでした。
血筋なのか、教育なのかと悩むけれど。
歴代のワンコたちを見ていると、うちに来たが故に「伝説」と化しているような気もする。
ならば、オーラだろうか。
血筋を持ち教育も受け、オーラを浴びている姪っ子が、伝説の頂点として君臨する日も近いかもしれない。
……引っ越そう……。
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