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そんな本音はおくびにも出さず、自分でも笑ってしまうくらい気障なウィンクを決める。
護が今朝初めて、ふっと表情を和らげた。
口角をわずかに上げただけのぶっきらぼうな笑顔だ。だが和泉の心は、その笑顔にたちまち引き寄せられてしまう。
「今度の舞台、片想いしてるゲイの役だって? 役作り大変だな」
だが、労るような護のその言葉に、たちまち心にちくりとした痛みが走った。
そう、これは演技のための役作りだ。そう思わせるよう仕向けているのは和泉自身なのに、性懲りもなく心が引き攣れる。罪悪感という名の棘は、小さくてもなぜか深く刺さって抜けにくい。
それでも役者としてのプライドにかけて、この痛みは絶対に表には出さない。
「ご協力、感謝」
和泉は毎朝鏡の前で練習している、自分にできる最高の笑顔を作る。澄みきった秋の空から降り注ぐ陽射しのイメージで。
それに対して、護はいつものように眉一筋動かすわけでもない。
「勿体ないことすんなって。そういう笑顔は舞台の上で見せる用にとっておけっての」
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