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 女子学生たちも、さすがに大学構内で握手やサインを求めてくるようなことまではしない。というより、和泉の姿を「鑑賞」するだけの方が楽しいのかもしれない。実際、こんな風に遠巻きに騒がれることはあっても、知らない人に直接話しかけられることは少ない。彼女たちも仲間内でひとしきり盛り上がると、恥ずかしそうに手を振ってその場を立ち去っていく。  気を取り直して勉強に戻ろうとすると、まるでそのタイミングを見計らっていたかのように、黒っぽい人影がすっと視界を遮った。  和泉の営業スマイルが、たちまち本気の笑顔に変わる。 「(まもる)、久しぶり!」 「いや、金曜日もここで待ち合わせしてノート渡しただろ」  鈴木護はあくまで冷静に応じると、テーブルにトレイを置いて和泉の前の席に座った。
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