§13

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 つんと唇を尖らせると、護がその唇を上下からピンチでとめるみたいに指で挟む。 「莫迦。逆だろ」 「ふへ?」 「こんな美形で才能もある上に努力家で、どんなステージでも中央に立つのに相応しい奴、いくらだって自惚れていいのに素で『俺なんか』って言っちゃうんだもんな」  唇をつままれているので反論ができない。顔だけがどんどん熱くなっていく。 「俺が和泉に訊くならわかるよ。なんで俺みたいな地味な裏方を相手にしてるんだ、って」  それは聞き捨てならない。和泉は自分の口から護の手を引きはがして、振り向いた。 「護、そんなこと本気で思ってるの」  少しでも頷いたら、護の魅力を十倍返しでまくし立ててやろうと構える。だが、護はあっけらかんと笑った。 「僭越ながら、思ってない」  珍しく、歯を見せるような大きな笑顔だ。 「和泉には俺がついててやらなきゃ、って思ってる」  護の指の長い手が、和泉のアッシュブラウンの髪の毛を掻き混ぜる。和泉が夢想していたような気の置けない友達同士のじゃれ合いのような仕草だが、もっとずっと甘やかされている感じだ。
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