ベストマンの意外な告白

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今夜ここに集まっているのは、幼少時代から一緒に過ごしてきた仲間たちだ。より詳しく言うと、いや、言えないことばかりをしてきた、悪友の集まりだ。 小学校6年生のとき、トンプソン校長のカツラ疑惑を暴いて見せたのは、明日結婚式を行う「はず」のネイトだし、それだけじゃなく、高校一の名クォーターバックだ。その彼が放つパスを受け取っていたのが、新郎に憎まれ口を叩いている、ギャレット。 ギャレットと付き合っていて、その後どういうわけかネイトと結婚することになったローズは……チアリーダーと思うかもしれないが、それははずれ。ローズは、学校一の秀才で、奨学金で地元の名門大学に進んだ、“リケジョ”だ。 ネイトとギャレットは、フィールドではとにかく息はぴったりだった。誰にも、二人の代わりはできなかった。ネイトが投げる先には必ずギャレットがいて、ギャレットが走る先に、ネイトのボールが飛んで行った。 ただ、プレイの外では、二人はまさに、犬猿の仲だった。特に、ローズが二人の関係に関わるようになってからは。なぜ秀才のローズが二人と付き合ったのか、そして二人もローズに夢中なのか。それはずっと一緒につるんでいた仲間たちにも分からない、永遠の謎だった。 おまけに、ここにいる誰もが、ネイトとローズが、まさか結婚するとまでは思っていなかった。 何というか、二人は住む世界が違うのだ。ここにいる誰とも、違うといってもいいかもしれない。だがいずれにせよ、なぜかは分からないが、ローズはネイトを選んだ。ネイトも、彼女しか見ていない。彼は今、悪ガキだった頃とは違う、純粋な輝きを放っている。誰もが、そんなネイトを見るのは初めてだった。 その晩、悪友たちはその不思議な輝きに魅了されていた。 なぜだか分からないが、すべてはうまくいく。きっと。 そんな気持ちに、誰もがなっていた。 結婚式前夜。独身最後のバチェラー・パーティー。 とはいっても、田舎町のこぢんまりとした集まりだ。 仲間内で、バーを借り切って、飲み、騒ぐだけ。 ストリップを呼ぼうという話になったが、仲間の元カノが働いていると聞いて、一気にやる気が萎え、却下。 もともとバーにあったカラオケが唯一の余興、ということになった。 皆ほどよく酔いが回ってくると、思い思いに歌い始める。 幼少時代の流行歌に合わせて合唱したり、友情を称える歌では肩を組んだり、ハグし合ったりしている。 そのうち、ギャレットがステージに上がり、マイクをつかんだ。 少し大げさな、オーケストラの伴奏で曲が始まる。 往年のラブソングだった。 『君はどうして 奴のところに行ったんだ いつも泣かされていたのに あいつはとんでもない奴さ 君をいつも見つめていたのは僕なのに 君はいつもあいつを見つめていた どうしてこの思いに気づいてくれないの 君を幸せにするのは僕しかいないのに』 曲が進むにつれ、男たちにもギャレットがネイトに向かって歌っているのが分かる。 そう、確かにギャレットは、恋人を奪った憎き元相棒に向かって歌っていた。 ネイトも、彼の意図を察して、睨みつけていた。 ギャレットが歌い終わる。 ネイトを睨みつけたままマイクを前に突き出し、そのまま手を離した。 マイクが床に落ち、その不快な音がスピーカーを通じて響き渡る。 それが合図かのように、ネイトはギャレットに飛びかかった。 ギャレットの方が敏捷で、ケンカが強いのはみんな知っていた。 「顔はやめろ!」 クリスとタナーが叫ぶと同時に、ギャレットのパンチが新郎の顔にクリーンヒットした。
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