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あっという間に男たちが二人に群がった。
止めようとする者、けしかける者、酔いが回って楽しそうにケンカに加わる者、入り乱れて乱闘状態になっている。
タナーとクリスは、椅子に座ったまま、その様子を平然と眺めていた。
「……結婚前夜でも、変わらないな」とタナー。
「ああ。だな」
「しかし、まさかあいつが一番乗りとは思わなったな。だって……」
「なに?」
「ローズは、お前のことが好きなんだと思ってたから」
タナーはクリスを見つめて、言った。
クリスは、一瞬おどろいたような表情を見せたが、ボトルを見つめ、微笑んだ。
「なぜそう思ったんだ?」
「なんとなく、さ。わかるんだよ、俺には」
クリスは、その微笑みをタナーに向けると、言った。
「お前には、いろんなことがわかるんだな」
「なんでもじゃない。肝心なことは、わからなかったりする」
「例えば?」
クリスに真顔で返されて、今度はタナーの方がドキッとする。
「……そうだな。新郎新婦は、末永く幸せに暮らせるだろうか、とか?」
クリスはニヤリとして一口あおると、言った。
「それは“上”に聞いてくれ」ボトルで頭上を指す。
タナーは苦笑いする。
「お前がうらやましいよ」
「ん?」
「なんでも、“上”にお任せできるだろ。難しい問題も、逃げたくなるような感情も、すべて、“あのお方”に委ねて、手放してしまうんだろう?」
クリスはその問いには答えず、うつむいてボトルをもてあそぶ。
「あいつら……昔からいがみ合って、ローズを取り合ってたけど、彼女への気持ちは、ほんとだと思うんだ。正直だし、それを隠そうともしてない。しかも、それを相手にぶつけてる。ほんと、馬鹿がつくほど正直で、まっすぐで……。だからあんな調子でも、いまだにつるんでるのかもしれない」
「……そうだな」
「……たとえ人のものでも、その人を愛することは、罪じゃないのかな」
タナーはクリスを見つめて、言った。
クリスは小さくため息をつくと、しばらく沈黙し、タナーを見つめ返すと、聞き返した。
「……お前は、どう思う?」
「俺は……」
相変わらずもみ合っている男たちをしばらく眺めていたが、タナーは席を立ち、床に転がっていたマイクを拾い上げた。
そしてカラオケ・マシンに何やら入力する。
目の前の騒がしさで音はやや聞こえづらかったが、バラードが流れてきた。
タナーはクリスを見つめながら、マイクに向かって歌い始めた。
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