ベストマンの意外な告白

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『君の中の秘密の部屋 その部屋には誰も入れない 気づいてる? 君が、自分でその部屋に鍵をかけてるってこと 僕に、その部屋の鍵をくれないか 僕にだけ、それを見せて 僕を中に入れて 僕には秘密はない 君には全部 見せたいんだ だって、こんなに好きなのに なにを恥じることがあるんだい 何もやましいことはない 僕は世界に向かって叫びたい 君へのこの思いを だからその部屋から出ておいで 僕と一緒に飛び出そう』 タナーの歌はお世辞にも上手いとは言えなかったが、クリスには十分すぎるほどに伝わっていた。 曲は間奏に入っていた。 クリスが、席を立つ。 タナーは、マイクを持つ腕をおろし、反対の手をクリスに向かって差し出した。 音楽と喧騒で聴こえないが、口の動きで 「おいで」 と言っている。 クリスは、とまどいつつも、タナーの手を取った。 タナーが、優しくクリスをそばに引き寄せる。 そして、クリスの目を真っすぐ見つめながら囁いた。 「やっと、来てくれたな」 クリスが、口を開こうとする。と、それを制して、 「大丈夫。お前の一番は、あのお方だろう?俺は、二番に甘んじるよ」 タナーが頭上を見上げ、クリスにウインクする。 「ああ。ああ。まずいぞ、きっと大混乱だ」 クリスはとても心配そうに、きつく目をつむっている。 「俺を見て」 クリスが、おずおずと目を開けて、タナーを見る。 「俺がついてる。“上”もついてる。愛することは、罪じゃないんだろう?」 「そう願うよ」 「じゃあ、万事オーケイさ」 クリスが思わず笑う。 「その楽観的なところが昔から好きだった」 「だろ?お前は悲観的過ぎるんだよ」 タナーがクリスの腰に手を回し、さらに近くに引き寄せる。クリスはタナーの肩に手をかけ、互いの額が触れ合った。 「病めるときも、健やかなるときも」 かなり、端折られた文言に苦笑したが、クリスは素直に繰り返した。 「病めるときも、健やかなるときも」 「……では、誓いのキスをしてもよろしいですか?牧師様」 クリスは微笑みながら、優しくタナーの頬を包み、そっと唇を重ねた。
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