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インターネット上に密やかに存在するそれは「灰色のページ」と呼ばれていた。
特殊な状況、問題、現象、事件に困った人間が検索を繰り返すとある時たった一ページだけがヒットする。
「灰色の問題でお困りですか?」そのページをクリックすると進むのは真っ白なページに一文。
「誰にも理解されない問題でお困りでしたらその内容をご記入し、送信ください。当方の範疇に当てはまるものである場合、あなたをお助け致します」
そうして状況を送信すると返信が返ってくる。そうして、理解不能な出来事を解決してくれる者が現れると。
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「ごめんなさい。安心したらなんか、急に力が抜けて……」
駅の中、人だかりからは少し離れた場所のベンチで三人、腰を下ろした。目前にはスキーやスノーボードの板を抱え行き交う人が多く、楽し気な声の中には彼女の小さな声ならば掻き消えてしまう程だった。
「本当に、来てくれたんですね」
本当に、安心しきった声音で彼女は呟いた。余程困り果てていたのか、余程怯えていたのか、その声は未だ震えているように思える。
雪と寒さに対策した真っ赤なダウンにジーンズ、黒いニット帽に偏光で色味が変わる青味のあるマフラーと暖かそうだ。
これだけしてくるべきだったと、ヒムラに本日二度目の後悔をさせた彼女の名前は二階光といった。今回の依頼人で、二十一歳。職業までは記入欄を設けていなかったのだがご丁寧に「販売員・コーヒー店」と書かれていた。
今にも泣きだしてしまいそうな彼女の依頼は「消えた女友達を探して欲しい」というものだった。そう、この駅にも貼られているビラの「女性失踪事件」の女性のことであるが、二階光は依頼内容記入時からかたくなに「消えた」と訴え続けている。
依頼内容は昨年十二月前半、この町のスキー場に併設されているペンション宿で友人たちとの旅行でのこと。依頼人の二階光と他四名でペンション宿泊中に、友人の波多野光が消えてしまったのだという。
吹雪く雪山に飛び出し、そのまま、消えてしまったのだと。
「なんで飛び出してったんですか?」
依頼内容を改めて整えている際、ヒムラはつい口走ってしまった。マチの目が恐ろしい程睨みを利かせてヒムラを見つめている。冷淡な程美しい顔が表情だけで感情を伝える様は異様な程に恐ろしい。ヒムラはよく知っていただけに、この表情が成す意味に縮こまって目をそらした。
「そうですよね、そうですよね……」
二階光は消え入りそうな声で囁きながら頭を抱え、身を守るように膝に肘をついてしまった。余計な事をしてしまった、ヒムラが本日三回目の後悔をした時、それまで睨みを利かせていたマチの表情が何事もなかったように無に変わった。
「そこは特に依頼内容に関係ない。言葉にしにくいならそのまま黙っていたらいい。必要な情報は必要な時に聞く、その時に求められたことだけを答えてくれたらいい」
「……え、でも、調査には必要なんじゃ」
「オレに必要なのはあんたが依頼した友達が消えたことに関するものだけで、それ以外は必要ない」
はっきり言うあまりに一方的に打ち切られる言葉は困惑を呼び、呆気に取られてしまった二階光は遂に助けを求めてヒムラに視線を合わせたが、ヒムラもまた笑みを返すのみだった。
けれどそれだけでは依頼人が心細い。ヒムラは自身のやるべきことを探り、言葉を選んだ。
「えっと、二階さんが僕たちに頼んだのはお友達の行方なわけだから、どこにいるのかを探すのが僕たちの目的になるから、いなくなってしまった理由は必要ないよ。僕たちはプロだから、ちゃんと探すよ、安心して」
ヒムラの一言に、二階光はなんとか飲み込んだ表情で頷いた。しかし無表情のマチはその顔のまま「プロ」と、体格に反してやたらと低い声で呟いた。
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