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会計side
トレイから出ると、いると思っていた人物がいなくて驚いた。
「…あーちゃん?」
帰ったのだろうか?
ずっとそうしたがっていたし、そうなっても無理はない。
「…あーちゃんっ」
でも何でだろうね?この時、すごい必死になったんだよね。
また、置いていかれる…って。
部屋を出て、走って、走って、走って。
長い廊下を走ると、目当ての人物がエレベーターに乗り込むのが見えた。
そいつが乗り込むと直ぐに扉が閉まり始めて、俺は脚をもっと早く動かした。
自己ベスト更新かもしれないってくらい。
何とか間に合って、閉まりかけた扉に手を突っ込む。事故になる可能性もあったけどそんなこと考えられなかった。
無理やり開いて中を覗くと、菊池葵羽がじとっとした目のあと、驚いたように俺を見た。
「お、おお、会計か…どうした」
どうしたと聞かれて、俺はどうしたんだろうと自分がわからなくなった。
どうしてこんなにこんな奴を探していたのだろう?
まだ親しいとも言えない仲なのに。
俺がウザ絡みして、それをこいつが嫌がるってだけなのに。
「……いや、…」
「…?」
言葉が出ない俺を不思議に思ったのだろう。菊池葵羽は分かりやすく首を捻った。
そして、「どうしたんだよ?」と聞いてきた。
「…もーう☆急に帰っちゃうなんて、俺ビックリしちゃったー☆」
咄嗟にいつも通りの口調を出す俺を、何か言いたそうな目で見ている。
さすがに怪しまれているようだ。
「……いや、置き手紙あったろ」
「え?」
そんなんだ…気づかなかった。
「そんだけ必死になって、俺に何か用か?」
「…………ひっし…?」
ボソッと呟いた声は届いていなかったようで、菊池葵羽はまた不思議に思っている。
「いんやぁ?何でもないよ☆それより、俺の事そんなに心配してくれてるの?あ!もしかして俺の事好きn「じゃあな俺もう帰るから」もー、冗談だってー」
そう言って扉から手を離すと、直ぐに扉は閉まっていく。
扉が閉まると気が緩んだのか、笑顔だったのがスっと真顔になったのが分かる。
ひっし、必死か………。
俺はまだ、あのことを引き摺ってんのかな。
side end
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