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出現
「見えたぞ」
高速前進するカラカサがうなり、対象物を視界にとらえた。
駅や幹線道路から離れた住宅密集地の一角。まがまがしい妖気が二階建ての一軒をみたしている。それはもういっぱいいっぱいで――
「ニギャオオ」
家が砕け散った。
咆哮とともに暴れでてきた妖魔は、手当たり次第飛びかかり、電線も切られて辺り一帯から灯りが消えた。
月明かりでかろうじてわかる妖魔の姿は巨大で毛深い。
「……でかいな。オヤジさんに助けを求めるか?」
「え。カラカサキックとかでなんとかなるんでしょ? 追いかけて」
妖魔は闇を増やしながら都心部へと進行していく。
大きさにちょっと圧倒されたけど、職場体験はまだ始まったばかり。これで帰りたくない。
「まあやるけどよ」
ヒーローの必殺技名みたいの妖怪につけるなよ、とぼやきながらカラカサはまた風になって走りだした。
緋い月のもとで家々より大きな影が狂い舞い、しなやかに破壊していく。妖魔は図体でかいわりに身軽で、屋根から電柱、電柱からビルの屋上へと俊敏に跳んでいってしまう。
ようやく追いついたのは、カラカサの駿足のおかげではなく、ソレが止まったおかげだった。
妖魔は東京タワーのてっぺんに乗って、叫び鳴きだしたのだ。
けどそれは、発情期のオス猫の声に似ていて、なんだかもの悲しい。鳴いて泣いている。
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