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運命を受けいれた刹那、私は地から浮いた。カラカサが私を抱いて疾走していた。
「手刀でできたかもしれないのに」
「お嬢がオレのキックを信用してくれたらオレひとりで倒せたのに」
ため息をはいたら、ため息で返された。
「ニャンコさんはキックでダメージ受けてる感じしなかったよ。あれで倒せそうもなかったけどな」
「そうだったかもしれない。けど、あんな危険な状況にお嬢が出ることはない。お嬢になにかあったらオレはオヤジさんに顔向けできない」
フードの影での中でカラカサの顔はうつむいた。父上からの恩に報いたい気持ちでいっぱいなのだろうか。
「傘の役目を思い出させてくれた」
雫がひとつ落ちてきた。
……妖怪って泣くの?
見上げると、次から次へと降ってきたのは雨。白みだした空には淡墨インクがにじんでいる感じだ。
そしてその空の下、白猫怪獣が私たちを追いかけてきている。そのとき、
「え、ちょっと。なんでよ」
カラカサは和傘の状態に戻った。和傘形態の一本足でも強い脚力だけど、人型より走力が劣る。つまり、白猫につかまる可能性が高くなる。
「傘はさしてこそ傘だ」
なんてこと。あの雨の日にカラカサは浸りだした。
自動で開きぬれるのを防いでくれるのはありがたいけど、今は逃げるのが先決だ。
「まったくもう」
カラカサからおりた。
傘の足首をもって走る。
どっちが速いかわからないけど、夢うつつ状態のカラカサよりはマシかもしれない。
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