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次の日。大学の授業を終えて、相変わらず私は作業室に向かっていた。
でも、いつもみたいに気分が上がらない…。
せっかく大好きな絵を描きに行けるのに。
昨日は結局、幸人の家から帰っても眠れなかったし…ご飯もあまり食べれなかった。
有咲に聞いてみたくても、聞けない…。
「…はぁ、もう嫌だ」
幸人のあの言葉は嘘だったのかな?
本当は私のこと、絵の具だらけの汚い女だと思ってたのかな…。
そんなことばかり考えてしまう。
でも…このまま知らないフリをしてれば、幸人は変わらず私の彼氏でいてくれるって思うと…どうしても行動できない…。
こんな自分が嫌だ。
「……ん?」
憂鬱なまま作業室に向かっている途中、廊下でキョロキョロして行ったり来たりを繰り返してる不審な男の人を見つけた。
グレーのジャケット着てるけど…キャップ被ってるし、なんか変な人?
まさか…不審者が入ってきたとか?
「!!!」
「ひぇっ…」
恐怖を感じながらも、すごい目でその人を見ていたら、勢いよく目が合ってしまった。
そして、そのままこちらへ向かって歩いてくる不審者。
「ひっ!!誰か…!」
「ちょっと待って!君、ここの生徒だよね?」
「……へ?そうですけど」
「よかったー!僕、特別講師に来たんだけど、この大学広くて迷っちゃってさー。ちょっと案内してほしいんだけど」
「…あ、そ、そうなんですか。てっきり不審者かと」
「えっひどい!これでも僕は、絵の世界じゃ有名な画家なんだよ?」
その人は、えっへんと偉そうに胸を張って見せた。でも真正面から見ても変な人だ。
画家…?この人が?こんな怪しそうな人が?
あぁ、でも芸術家って変わり者が多いっていうし…納得かも。
「そ、そうなんですね。失礼しました。えっと、どこに行きたいんですか?」
「ここ!この総合会議室ってとこ」
「…分かりました。ついてきてください」
「ありがとー!助かる!」
総合会議室って…もはや棟も違うし、逆方向だし…。
まぁいいや。案内したらすぐ作業室に行こう。
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