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「ねぇねぇ、君は何を専攻してるの?」
その人の前を黙って歩いてたら、急に隣に来て私に話しかけてきた。
身長でか…。
「…油絵です」
「えっ!ほんとに!?僕と同じだね」
「え?」
「僕は水彩も墨もやるけど、基本的には油絵が好きなんだ」
「…そうなんですか」
何やら嬉しそうに話してる。まぁ、絵が好きっていうのは私も好きだから嬉しくなるけど。
でも、会ったばかりのこの変な画家にまだ警戒心は解けない。
「君も絵が好きなの?」
「…そうですね、絵は昔から好きです」
「へぇーいいね。素敵だよね、好きなことできるって」
「まぁ…はい」
そう話しながら歩いていると、総合会議室の前に着いた。先生や講師の人がガヤガヤと集まっている。
「…あ、ここです」
「はー!やっと着いた!ありがとう!」
「いえ…じゃあ失礼します」
「あ!ねぇ、名前なんて言うの?僕は多岐って言うんだけど」
「え?名前…青谷実莉です」
「青谷さんね!ありがとう!またね!」
「はい…」
人目も気にせず、そう叫んで手をブンブン振ってから多岐さんは会議室の中に入っていった。
なんかやっぱり変な人…。
またねって…もう会うこと無いんじゃないかな。
そう思いながら、ちょっとあの変な人がどんな絵を描くんだろうって気になって、ネットで検索しながら作業室に向かった。
「…うわ、本当に有名な人なんだ」
【画家 多岐】で検索したらすぐにいくつもの検索結果が出てきた。
個展も何度か開いてるし、海外でも賞をもらったり、ファンも多いみたい。
「…え!?ひとつの絵が800万円!??」
つい驚きが声に出てしまい、はっと口を抑える。携帯を落としそうになったよ。
多岐さんの絵は、どれもこれも有り得ない値段で売られているし、購入済の絵がほとんど。
その中の1つの絵をズームして見てみる。
「………」
でも…なんか少し分かる気がする。
この人の絵は、パッと何も考えずに見たらよく分からないものばかり。
でも…色の重ね方や、筆のタッチが柔らかい…。
素人の私じゃ、魅力は分かりきれないかもしれないけど…なぜか、多岐さんの絵を見ると胸がほっとした気がした。
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