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多岐さんの言葉が胸に刺さった。
確かにその通りだ。さっきの私は自分でも分かるぐらい感情任せで絵を描いていた。
多岐さんに酷いと言われたことよりも、こんなに絵が好きなのに、そう思えないほどの有様だったことが悔しい。
「……っ好きです、絵が好きです」
「なら、あんな描き方したらダメだよ。そういう怒りをテーマにしてるなら別だけど…それを通り越してた。キャンパスに穴が空くんじゃないかと思ったもん」
「………っわ、わたし、」
「え、なんで泣くの?うわ、ちょっと待って。僕そういうの慣れてない」
気付けば、頬に涙が伝っていた。
何に対しての涙か大体分かる。糸が切れたように、我慢してたものが溢れたんだ。
でも、このタイミングじゃ多岐さんが泣かせたみたいになってしまう…泣き止まないと。
「うっ…おぇっ…」
「ちょ、ちょっと待って。おえって何?吐くの?どうしたらいいの?救護室行く?」
「い、いえ…大丈夫です…」
「…そう?大丈夫ならいいけど」
私が涙を拭いながらそう言うと、多岐さんは慌てることをやめて、また静かに椅子に座り直した。
そして泣いてる私を、ただ凝視し始める。
「……」
「………」
え…何この空気。
勝手に泣いたのは私だけど…何かあった?とか、少しぐらいフォローは無いのか…?
いや何勝手なこと考えてるんだ、私は。
幸人がそうしてくれたからって…会ったばかりの多岐さんにそれを求めるなんて。
そもそも、会ったばかりの人の前で泣く自分が恥ずかしい。
「ねぇ、泣いてるのって僕のせい?」
「え?いや…違います」
「そう、ならいいや。もっと泣きなよ」
「……へ?」
今なんて…?
多岐さんは、あくびをしながらふらふら歩き出して、作業室を物色し始めた。
私の作品や、先輩方の作品をジロジロ見て歩き回ってる。もはや美術館に来たおじいさんのよう。
「…すみません、急に泣いたりして」
「いや?特に興味ないから大丈夫だよ」
「……ほ」
「まぁでも、涙はデトックス効果があるからストレスが溜まってる時は泣いた方がいいってよく言うじゃん。だからいいんじゃない?」
「………」
一応、気にかけてくれてるのかな?
本当に変わった人だ…。
「…すみません、じゃああと少し」
「うん、どうぞ」
「うぅ…っおえっ…」
「でも、そのおぇっはやめて」
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