第一章  懺悔

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 部屋の扉を閉めると、桂人は沈むようにしてソファに座り込んだ。目を閉じながら、ついさっきまで一緒にいた井上代議士の表情を思い返した。  どんな悪人でも、死に際になると生きたいとすがるものだ。医者が命を救って当たり前と思い込んでいるなんて、考えれば考えるほど傲慢でおかしな話だ。滑稽すぎて笑ってしまう。まあ、彼の場合、死に際で反省しているだけ、マシかもしれない。  最新号の経済誌を手に取り、なんとなく開いた。これでも一応、経営者だ。気分転換も兼ねて、時間があるときは経済誌に目を通すようにしている。  とあるページをめくった時、自然と手の動きが止まった。  経済界を動かす次世代リーダー特集。和泉グループの若き社長が取り上げられていた。写真を見る限り、年齢は桂人とさほど変わらない。和泉グループと言えば経済界では誰もが知る大手企業グループ、傘下企業も多種にわたり、不動産業やサービス観光業、最近では慈善事業にまで手を伸ばしている。  業界は違えど、なんとなく惹かれるものを感じたのは、同世代の経営者だからだろうか。  ほお、彼が和泉社長か。眉目秀麗、五官精巧、なかなかのクールビューティだ。 62c18b32-f867-4735-899c-3f889ec58e8d               
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