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「さすが、頼もしいですね」
彼は嘘臭い笑みを浮かべると、一丁上がりと言わんばかりに私の書類を右の処理済み山に乗せた。こっちだって一刻も早くこのいまいましい会話から解放されたい。テーブルの上の書類を掴むと、私は顎を振り上げて立ち上がった。
「では、失礼いたします」
「仁科さん」
部屋を出ようとした私を彼が呼び止め、席を立ってこちらにやって来た。憤然と振り向いた私の心臓が不覚にもドクンと跳ねる。北条怜二に間近に立たれたのは初めてで、彼の身長に反応してしまったのだ。
デカ女だからって俯いて生きたくない。でもヒールを履くと大抵の男性と背丈が並んでしまうか、悪くすると越してしまう。その度に内心やっぱり自分の身長がいたたまれなくなり、私は微妙に猫背になってしまう。
ところがすぐ背後に立った彼は身長百六十九センチにヒールを履いている私よりずっと高かった。思わぬ高さにある腰の位置にガツンとやられ、か弱い女みたいにフニャフニャと寄りかかりたくなる。
世の女の子ってずるい。
みんなこんな気分で男の人を見上げてるんだ……。
「福利厚生関連の書類です。こちらもお持ちください」
手に書類が押し込まれて我に返ると、彼は呆れたような表情を浮かべていた。至近距離でぼうっと見上げていたことに気づき、慌てて飛び退る。
あなたじゃなくて、単に背の高い男に反応しただけなんだからね。
「ありがとうございますっ」
自分に腹を立てながら頭を下げ、背を向けてドアに突進した。
「ああ、それと……少々申し上げにくいのですが」
彼の口調からして悪い予感しかしない。すぐ逃げ出せるようにドアにかじりついて振り向くと、北条怜二は無表情のまま、あの一言を放った。
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