赤っ恥婚活バトルとヘビ男の助け舟

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挽肉を出し終えると、怒涛のような唐揚げ肉作業が始まった。 普段から矢部さんは唐揚げ肉の切り方にうるさく、特に一片の大きさと総重量にこだわる。社内規定より一割低く抑えろと言うのだ。 「一パック五百円を超えると、この地域では売れねぇ」 矢部さんが大きさにこだわるのは他にも理由があった。 「ここら辺は年寄か小さな子供が多いんだよ。デカいと食べにくいでしょ。買う人、食べる人のことを考えて作るんだよ」 それを聞いて初めて「矢部ルール」にはちゃんと血の通った根拠があるのだと納得できた。特に明日は多くのお年寄りがお弁当の唐揚げを口にする日だ。 でもこの日、私は本当に忙しい状態というものを初めて経験した。 「唐揚げ八キロ分、全部大パックで」 普段ならパック数で出る指示が、この日はキロ単位だ。 「計るんじゃないよ! 身体で覚えな」 計るなという指示は速さと正確さの両方を叶えるため。頭ではわかっているのに、求められるレベルに届かない。そして尋常ではない量に体力の消耗がすごい。 「大きいよ! これ見てみな」 値付け作業をしていた矢部さんが作業中の私の手の上にパックを叩きつけた。矢部さんは忙しい時、よく暴力的になる。荒い世界に慣れていない私には精神的にそれがきつい。 「三百六十グラムっつったじゃん! これ三百八十だよ。いい加減できないの⁉」 「まあまあまあまあ。社内規定は四百だから……」 「あんなカス規定よりここの地域に合わせろっつってんですよ」 「ああそうです、はい」 取りなそうとした佐藤主任がとばっちりを受けている。柳井君はというと、豚肉が出した端から売り切れる状態で忙殺されているようだ。
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