赤っ恥婚活バトルとヘビ男の助け舟

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そこから後は気が動転していて細かいことは覚えていない。戻ってきた柳井君が手袋を剥がして流水で洗ったあとガーゼで押さえてくれて、そのまま柳井君の運転で病院に直行した。二人とも作業着のままだ。 「すみません、帽子をかぶったままでした」 病院の待合室で柳井君が私の頭の給食帽を取ってくれた。帽子で潰れて変な癖がついた前髪が鶏のトサカのように立っている。さきほど消毒と止血をしてもらい、今は縫合の処置待ちだ。つくづく情けない気分だった。 「ごめんなさい。忙しい日に……」 「何言ってんですか! 売り場より傷ですよ。当たり前じゃないですか」 「でも売れる日だったのに」 「豚は冷蔵庫にある分は全部切って出しました。唐揚げは矢部さんが引き継いでくれたはずだから大丈夫です」 こんな店、こんな仕事と思っていた。でもそう言う私はちゃんと務まっていない。それどころかとんだ迷惑をかけてしまった。 「矢部さんが傷は大丈夫かって言ってます」 スマホのメッセージを見た柳井君が矢部さんに返信している。 「一週間は来ちゃ駄目だって。傷が開くし感染するからって言ってます」 「ごめんなさいって謝っておいてくれる?」 「あー……」 柳井君の指が止まったので画面を覗き込むと、矢部さんの返信が見えた。 〝役立たずが抜けても変わんねぇって言っといて〟 「売場は心配するなって意味ですよ」 「矢部さんらしいね」 笑いながら鼻の奥がツンとした。機嫌に振り回されて腹が立つことも多いけれど、根っこは温かい人なんだと思う。
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