死族

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「さ、町に戻りましょう」  急にカリアムが戻ってきたりしないように、ミドリは早く町に戻ろうとしたが、ヒロハルは戸惑ったような表情を浮かべた。 「君たちはいったい……」  ヒロハルの反応を見て、ミドリは事情を説明した。  目の色が変わる眼鏡が欲しくて、太陽の町のアクセサリー屋さんに行ったこと。  そこでヒロハルが行方不明だと聞いたこと。  娘のカホのことを聞いて、親戚のおばさんに了解を取ってカホちゃんに話を聞いたこと。  カホの証言からカリアムの似顔絵を描いて、行方不明のヒロハルを探していたこと。  うまく説明できているか自信のなかったミドリだったが、ヒロハルはうんうんとうなずき、話を理解してくれた。 「眼鏡を作りたいためとはいえ、わざわざそこまでして探してくれたのか。本当にありがとう」 「いえ。とにかく今はお疲れでしょうし、カホちゃんが心配していると思うので、帰りましょう」  ミドリはそう提案し、三人はヒロハルを連れて町の真ん中に戻ることにした。  町に戻ったところで、エイジとナオが周囲を目だけで確認した。 「付いてくる奴は?」 「今のところいないな」  エイジとナオがそう話してるのを聞き、ミドリは振り返った。 「付いてくる人って……?」 「ああ。あの死族が何か付けてる可能性もあるからな」 「あの子に会う前に確認していただけだよ」  ふたりが事も無げに言うのに、ミドリは驚いた。 (そういうのちゃんと気にしてるんだ。ふたりは旅慣れてるな)  旅というよりこの世界の感覚に慣れているというべきかもしれない。  ミドリはヒロハルを助けた時点で、後はカホに会わせるだけと気軽に考えてた。 (ゲームでエンカウントした敵と戦うとは違うんだものな)  相手も知性ある生き物で、こちらの予想通りの動きをしてくれるわけではない。 (僕もふたりみたいには気にすることは出来ないかもしれないけど、そういうことがあるって覚えておかなきゃ)  いつこちらの世界から戻れるかわからない以上、この世界の感覚に慣れないといけないとミドリは気を引き締めた。  ヒロハルをカホのいる親戚のおばさんの家に連れて行く。 「お父さん!!」  父の姿を見たカホは驚き、喜んで抱きついた。 「すまなかったなカホ。お前を町の外で一人きりにしてしまって……」 「ううんううん。お父さんが無事に帰ってきてよかった! 私、一人でちゃんと町にも帰れたよ!」 「うんうん、えらかった」  ヒロハルはカホを撫で、面倒を見てくれていたおばさんに礼を言った。  ひとしきり家族で話した後、ヒロハルはミドリたちのほうを向いた。 「君の眼鏡は私が作らせていただこう」 「いいんですか?」 「もちろんだ。助けてもらった礼だ。私が眼鏡を作る間、家に来るといい。そんな大きな家ではないがもてなそう」  ミドリは悩んだが、ヒロハルはこう押した。 「君の眼鏡は度が入っているのだろう? ただ、遊びで目の色を変えるだけの眼鏡なら簡単だが、度が入るものだと、合わせながら作ったほうがいい。だから、うちに泊まってくれ」 「うちに来て、お兄ちゃん。私もおいしいお茶を淹れるから」  カホもヒロハルと同じく泊まるのを勧めてきた。  最初に話を聞きに行った時より、ずっといきいきとしたカホの笑顔をミドリはあの時はカホも心が固くなっていたのだと気づいた。 (良かった、元気になって……)  ホッとするミドリの肩を、ナオがポンと叩いた。 「いいじゃん、ミドリくん。お世話になろう。眼鏡はきちんとしたもののほうがいいし」 「俺も賛成だ。ミドリ、お前、あまり歩き慣れてないだろう。第一都市に行くまで歩き詰めは良くないから休み休み行け」  エイジにもそう勧められ、ミドリはヒロハルのところにお世話になることにした。
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