死族

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 ミドリはナオとエイジに何も告げずにカリアムに付いてきてしまった。  だから、ふたりはミドリが町はずれに出て行ったことすら知らないはずだ。  それなのに、ミドリがカリアムに連れて来られた家を突き止めて、助ける算段をしてくれていた。  助けてくれたのはありがたいのだけど、ミドリには疑問だった。 (スマホの位置情報みたいなのがあるわけではないのに……)    自分が勝手に連絡もせずに付いてきてしまった非があるため、ミドリはそれを聞くのがためらわれた。  しかし、カリアムは迷いなくナオに尋ねた。 「どうしてここがわかったの?」 「……それは」  珍しくナオにしては歯切れが悪い。  カリアムは赤く長い爪をゆっくりと回して、小さく微笑んだ。 「魔力探知か。キミ、高度な魔法を使うね。そうは見えないけど、魔法使いかい?」  じいっとカリアムの赤い瞳がナオを見つめる。  ナオも左右の色が違う赤い瞳をしているが、カリアムはナオの瞳の明るい輝きとは違う、どす黒さの混じった赤い目をしていた。 「見たところ結構な魔力量じゃないか。人間でここまでの魔力を持つ者は稀だ。それなのに……探知魔法までかけて、ミドリを追うなんてどうしてだい?」  瞳の奥を探るようにカリアムが問いかける。 「ミドリに何か謎があるのかな? それとも、キミ自身に謎が……?」  ナオは口を開いたが、それは答えるためでなく、詠唱を始めるためだった。 「おっと。ここで大魔法は危険だよ。あそこの眼鏡職人君も吹っ飛ぶよ」  カリアムは笑い、不意に何かを思い出したように手を叩いた。 「ああ、そういえばキミたちはあの眼鏡職人を探しているんだっけ。いいよ、連れて帰って」 「えっ……?」 「正直、しばらく食事を抜いたり、魔力で縛っておけば、音を上げて眼鏡を作ってくれるかと思ったんだけど、全然でさ」  やれやれと演劇にように大げさに肩をすくめて、カリアムが笑う。 「殺しちゃっても良かったんだけど、急に気が向いて眼鏡を作ってくれる気になったら、惜しいじゃない? でも、作ってくれないならいいですって、ただで返しちゃうのも四死将としてどうなのかって思ってたんだよね。キミらに奪い返されたってことなら、それっぽくなっていいかなって」 「……本当にいいの?」  慎重に尋ねるミドリに、カリアムは笑みを浮かべた。 「ああ、いいよ。ボクの気が変わらなければね」  カリアムの言葉を聞いて、ミドリは急いで眼鏡職人のヒロハルに駆け寄り、彼を椅子から動かそうとした。  しかし、ヒロハルは椅子から立てなかった。 「なんで……」 「魔力で拘束されているからだよ、ミドリくん。ちょっと待って。『解除(リベルテ)』」  焦るミドリをなだめ、ナオが魔法を唱えた。  パチッと弾けるような感覚がして、ヒロハルは立ち上がった。 「すごい。さっきまで、まったく動けなかったのに……」  ヒロハルが驚くと同時に、カリアムも軽く目を見開いた。 「へぇ……あの魔法を簡単に解くか。ナオって言ったっけ。キミもどれくらいの力があるのか気になるね」 「やんのか、コラ」  カリアムを脅したのは、ナオではなくエイジだった。  だが、カリアムはエイジを斜めに見上げ、口元に笑みを浮かべた 「まさか。気になることはあるけれど、竜炳王国(ドラッヘシュタート)と全面戦争になるようなことをする気はないよ」 「竜炳王国と全面戦争?」  ここでただ戦うだけでも、そんなおおごとになるのかとミドリは不思議だったが、言われたエイジのほうはバツの悪そうな顔をして黙ってしまった。 「おや。キミの仲間は知らないのかい? わざわざ助けに来たのに、そんなことも話してないのか。人間って不思議だね、仲がいいのか悪いのか。仲が良くても秘密を作るのか」  上機嫌で歌うように語ったものの、カリアムはそれ以上は追及せず、赤い翼を広げて、窓の外に足をかけた。 「それじゃボクは行くよ。また会おうね、ミドリくん」    ナオの呼び方を真似して、そうミドリを呼び、カリアムは空へと去っていった。
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