6人が本棚に入れています
本棚に追加
第三都市・魔梨亜樹は、烈怒亡霊と獄黒鳥、そしてナオ率いる天の剣が覇権を争っていた。
ミドリとナオが出会った日は、その三つの抗争の日だった。
「用意はいいですか、ナオ総長」
嫌みたらしく丁寧な口調で、獄黒鳥の会長・タカユキがナオに確認する。
「ああ、いいぜ!」
「それでは、烈怒亡霊のほうも大丈夫ですか。ノブナリナンバー1」
「用意は出来てるが、気持ち悪ぃ呼び方すんな!」
「おやおや、私としては丁寧にお呼びしているつもりだったのですが」
抗争といっても、彼ら同士が戦うのではない。
戯瑠弩が困っている難易度の高い依頼を受け、それを一番先に成功させたものが勝ちというものだ。
彼らはぐれ者の抗争が許されているのは、その争いが都市の利益になるからである。
今回は天の剣、烈怒亡霊、獄黒鳥の中から10人を選抜し、リザードマン1体を倒すという依頼だった。
死者が多く出ると戯瑠弩に怒られるため、1体に10人で当たるという安全設定である。
むしろ速さが競われる抗争だった。
そのため、出発時間が同時になるよう、厳密に守られることになり、獄黒鳥の会長・タカユキが号令をかけることになっていた。
「テメェは戦わねぇのかよ」
ノブナリの問いにタカユキはふふっと笑った。
「私は頭脳派ですので。そのあたりは副会長のマサヒロくんに任せてます」
「ケッ、相変わらずうさんくせえ奴だな!」
悪態をつかれても微笑を崩さず、タカユキは準備を始めた。
「それでは、全員同時に出発しますよ。3、2、1……0!」
タカユキの号令で、全員が一気に走り出す。
彼らは黒い森に入り、パワー系の烈怒亡霊、インテリ系の獄黒鳥を追い越し、スピード系の天の剣がリードした。
だが、その速さが災いした。
1体だと思っていた、彼らならず者集団にとっては“狩り”だと言えるようなリザードマン討伐だったが、そこに50体を越すリザードマンが現れたのだ。
気づいた時には囲まれていた。
「ど、どうする、ナオくん!」
一番乗りだと勢いづいていた天の剣の面々の顔に焦りの色を浮ぶ。
ナオが考えていると、三番隊隊長であるユキトがあることを思いついた。
「そうだ! 烈怒亡霊や獄黒鳥の奴らは?」
30人いれば切り抜けられるかもしれないとユキトは希望を持ったが、一番隊隊長であるユウゾウは首を振った。
「無理だな。後ろに付いてきていた烈怒亡霊は俺たちが囲まれてるのを見て、早々に逃げ出した」
「なんだよ、アイツら! 普段は烈怒亡霊がパワー最強とか吹いてやがるくせに!」
悪態をつく元気はあるものの、ひしひしと絶望感が広がる。
「ナオくん……どうしよう、このままじゃ……」
「落ち着け! 動き方を間違えなきゃ、うまく脱出できる」
ナオは強気の言葉を返し、相手の様子を伺った。
(オレ一人ならすぐにここを抜け出せるが……)
天の剣の中でもっとも足が早いのはナオである。
ナオが囲みを抜けて、街で待つ天の剣の残りのメンバーを呼ぶ方法もあった。
しかし、五代目総長たる自分が仲間を置いてこの場から走り去るなど、ナオにはできなかった。
(そんなことをしちまったら、ナオ・ディックスグレイの名を捨てなきゃいけねぇ)
最初のコメントを投稿しよう!