6人が本棚に入れています
本棚に追加
1.この世界の皆さん、なんでこんなに昭和のヤンキーなの!?
「テメェが1000年に1人の『運命の子』ってやつか」
挨拶なしの声かけに、ミドリは恐る恐る振り返った。
「は、はい。多分……」
「多分ったぁなんだ! シャバいこと言いやがって!!」
ミドリの後ろの壁にドンと拳が突きつけられる。
(僕の知っている壁ドンはこれじゃない)
心の中で抗議しながら、ミドリはそっと相手の顔を盗み見た。
剃りこみの入った髪、眉から目にかけて付いたえぐい傷、人を5、6人殺してそうな目。
その目と目が合ってしまい、ミドリはまた凄まれた。
「なあにが『運命の子』だ。この竜炳王国の第三都市・魔梨亜樹はなぁ、俺ら烈怒亡霊の縄張りなんだよ!」
男がミドリの襟首を持ち、上に引っ張りあげる。
「わかったら魔梨亜樹から出てけ。賢者ヴェラ・デュ・フェルナージュの予言通り、『運命の子』が現れただの、それを擁する天の剣が竜炳王国の最強集団だの言われて、こっちはイライラしてるんだよ」
「ぼ、僕は別に自分が『運命の子』だなんて一言も……」
「あああん、聞こえねえな! 何か言いたいことがあるなら、ハッキリ言えよ!」
ミドリの襟首を締め上げて、男が脅してくる。
(ダメだ、この手の人種は正論で言っても……)
何かこういうタイプがビビることを言わないといけない。
(えーと、この世界ってファンタジーゲームっぽいんだよな。それじゃそれっぽいのを……)
「……『ねじれ穴の龍魔の洞窟』知ってる? あそこにいた黒龍、倒したの僕なんだよね」
「なんだと! お前が倒したのか、あの300年誰も倒すことが出来なかったという黒龍を!」
(本当にいるの!?)
逆に問い返したくなるのを、ミドリはぎりぎりで耐えた。
効果は抜群だったようで、男の手が震え出し、ミドリの襟首から離れた。
「……あの見るだけで恐ろしい黒龍を一発でやったのかよ……嘘だろ……」
「いや、僕、一発でとは……」
勝手に話が大きくなっているのをミドリが訂正しようとした時、そこに人がやってきた。
「やっぱりミドリくん、すごい“伝説”持ってるんじゃん」
「ナ、ナオくん!」
一番聞かれたくない人間に聞かれてしまったと、ミドリは男とは違う意味で青ざめた。
「さっきは急に、僕は最強なんかじゃないです、運命の子でもないですって言い出して逃げちゃったから、どうしようかと思ったよ」
ニコッと笑うナオとは逆にミドリは震えた。
「いや、本当に僕……」
「さ、天の剣のみんなに紹介するから行こう。1000年に1人のみんなが待ち望んでいた『運命の子』だ。俺らの集団で最高のもてなしをするからさ」
最高のもてなしがどんなものか想像もつかず、逃げたくなるミドリだったが、ナオとミドリの間に立ちふさがる男がいた。
ミドリに凄んだ男だ。
「何、キンジ。オレ、ミドリくんに用があるんだけど」
言外にお前に用はないと言われ、キンジは肩を怒らせた。
「ああん! 今こいつと話してるのは、俺様なんだよ! テメェは……」
引っ込んでろと言いかけたキンジが、ナオのバックハンドブローで吹き飛ばされる。
(人間って本当に吹っ飛ぶの!?)
ミドリが驚くほどキンジは吹っ飛び、木に当たって派手な音を立てて倒れ込んだ。
「さ、行こう。ミドリくん」
「あ、で、でも、あの人は……」
「自分に絡んできたヤツまで心配するなんて、ミドリくん“優しい”んだね。でも、大丈夫だよ。ああ見えて、キンジは烈怒亡霊のナンバー3だから。そこそこ頑丈だよ」
笑顔で語るナオにミドリは目を白黒させた。
「え!? ナンバー3の人を殴っちゃっていいの!? 問題にならないの?」
「大丈夫大丈夫。この都市じゃ、これくらいのことよくあるし。それに、そもそも天の剣は烈怒亡霊と元から対立してっから」
元から対立してるならますますマズくないか。
ミドリの心配をよそに、ナオは上機嫌でミドリを自分たちの本拠地に連れて行った。
最初のコメントを投稿しよう!