1.この世界の皆さん、なんでこんなに昭和のヤンキーなの!?

1/7
前へ
/26ページ
次へ

1.この世界の皆さん、なんでこんなに昭和のヤンキーなの!?

「テメェが1000年に1人の『運命(エアレーザー)の子』ってやつか」  挨拶なしの声かけに、ミドリは恐る恐る振り返った。 「は、はい。多分……」 「多分ったぁなんだ! シャバいこと言いやがって!!」  ミドリの後ろの壁にドンと拳が突きつけられる。   (僕の知っている壁ドンはこれじゃない)  心の中で抗議しながら、ミドリはそっと相手の顔を盗み見た。  剃りこみの入った髪、眉から目にかけて付いたえぐい傷、人を5、6人殺してそうな目。    その目と目が合ってしまい、ミドリはまた凄まれた。 「なあにが『運命の子』だ。この竜炳王国(ドラッヘシュタート)の第三都市・魔梨亜樹(マリアージュ)はなぁ、俺ら烈怒亡霊(レッドゴースト)の縄張りなんだよ!」  男がミドリの襟首を持ち、上に引っ張りあげる。 「わかったら魔梨亜樹(マリアージュ)から出てけ。賢者(サージュ)ヴェラ・デュ・フェルナージュの予言通り、『運命の子』が現れただの、それを擁する(ヴァルハラ)(ソード)が竜炳王国の最強集団(トップチーム)だの言われて、こっちはイライラしてるんだよ」 「ぼ、僕は別に自分が『運命の子』だなんて一言も……」 「あああん、聞こえねえな! 何か言いたいことがあるなら、ハッキリ言えよ!」  ミドリの襟首を締め上げて、男が脅してくる。 (ダメだ、この手の人種は正論で言っても……)  何かこういうタイプがビビることを言わないといけない。 (えーと、この世界ってファンタジーゲームっぽいんだよな。それじゃそれっぽいのを……) 「……『ねじれ穴の龍魔の洞窟』知ってる? あそこにいた黒龍、倒したの僕なんだよね」 「なんだと! お前が倒したのか、あの300年誰も倒すことが出来なかったという黒龍(シュヴァルツドラッヘ)を!」 (本当にいるの!?)  逆に問い返したくなるのを、ミドリはぎりぎりで耐えた。  効果は抜群だったようで、男の手が震え出し、ミドリの襟首から離れた。 「……あの見るだけで恐ろしい黒龍を一発(ワンパン)でやったのかよ……(フカシ)だろ……」 「いや、僕、一発でとは……」  勝手に話が大きくなっているのをミドリが訂正しようとした時、そこに人がやってきた。 「やっぱりミドリくん、すごい“伝説(レジェンド)”持ってるんじゃん」 「ナ、ナオくん!」  一番聞かれたくない人間に聞かれてしまったと、ミドリは男とは違う意味で青ざめた。 「さっきは急に、僕は最強なんかじゃないです、運命の子でもないですって言い出して逃げちゃったから、どうしようかと思ったよ」  ニコッと笑うナオとは逆にミドリは震えた。 「いや、本当に僕……」 「さ、天の剣のみんなに紹介するから行こう。1000年に1人のみんなが待ち望んでいた『運命の子』だ。俺らの集団(チーム)で最高のもてなしをするからさ」  最高のもてなしがどんなものか想像もつかず、逃げたくなるミドリだったが、ナオとミドリの間に立ちふさがる男がいた。  ミドリに凄んだ男だ。 「何、キンジ。オレ、ミドリくんに用があるんだけど」  言外にお前に用はないと言われ、キンジは肩を怒らせた。 「ああん! 今こいつと話してるのは、俺様なんだよ! テメェは……」  引っ込んでろと言いかけたキンジが、ナオのバックハンドブローで吹き飛ばされる。 (人間って本当に吹っ飛ぶの!?)  ミドリが驚くほどキンジは吹っ飛び、木に当たって派手な音を立てて倒れ込んだ。 「さ、行こう。ミドリくん」 「あ、で、でも、あの人は……」 「自分に絡んできたヤツまで心配するなんて、ミドリくん“優しい”んだね。でも、大丈夫だよ。ああ見えて、キンジは烈怒亡霊(レッドゴースト)のナンバー3だから。そこそこ頑丈だよ」  笑顔で語るナオにミドリは目を白黒させた。 「え!? ナンバー3の人を殴っちゃっていいの!? 問題にならないの?」 「大丈夫大丈夫。この都市(マチ)じゃ、これくらいのことよくあるし。それに、そもそも天の(ウチ)は烈怒亡霊と元から対立してっから」  元から対立してるならますますマズくないか。  ミドリの心配をよそに、ナオは上機嫌でミドリを自分たちの本拠地(ベース)に連れて行った。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加