コール・フロム・バアチャン

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 もう一度、おばあちゃんが作ってくれたあのお汁粉が食べたい!  おばあちゃんは生前料理ノートを書いていた。それが見つかれば、おいしいお汁粉の秘密がわかるかもしれない。  そう思って書棚や押し入れの中を探索していると、車で出掛けていた夫が帰ってきた。 「おーい、ただいま。見てくれよこれー」  呼ばれて玄関まで向かった私はあんぐりと口を開けた。夫が両腕に抱えているのは、十本以上はあるお汁粉缶である。 「悟史(さとし)さん、どうしたのそれ」 「自販機でコーヒーを買おうとしたら、なぜかお汁粉が出てきた」 「え?」 「おかしいと思って買い直したら、またお汁粉が」 「それでこんなにたくさん買ったの?」 「違う、二回目に自販機が“当たり”になって、またお汁粉が出たんだ。しかも何度も当たりをくり返して、結局売り切れになるまでお汁粉が止まらなかった」  私は沈黙し、考えを巡らせた。  もしや、子供達の身にも同じことが起きたのかしら? 「ねえ、もしかしてお義母さんから電話があったんじゃない?」 「うーん……やっぱり、あれはお袋だったのかな」  大量のお汁粉缶をダイニングテーブルに並べ、夫は息をついた。 「“おめは一家(いっが)の大黒柱なんだがら、いっぺぇかしぇで(働いて)けっぱれ(がんばれ)!”って怒られたんだよな。子供らも手が掛からなくなったっていうのに、なんで今更そんなこと言われたんだろ?」  おや? 夫は子供達と違って、落ちこんでいる(と勘違いされた)所を励まされたわけではないようだ。 「電話の相手、ホントにお義母さんだったと思う?」 「まあ、“悟史(さどす)!”って呼ぶ声はそっくりだったよ」 「なるほど」  私は手に持っていた大学ノートに視線を落とした。先ほど仏壇の引き出しから出てきたものだ。おばあちゃんの日記兼レシピノート。  パラパラとページをめくり、目的の項目を見つけて「あっ」となった。 「ふふふっ……」  思わず笑いがこぼれてしまう。 「よし、今度は私があのお汁粉を作る番ね」
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