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「ちょっと失礼するわね」
隣りの部屋へ行き、背後の襖を閉めると電話に出た。
「もしもし?」
『由美子っつぁん、まんずどうもね~』
「お義母さん」
懐かしいおばあちゃんの声に、私は微笑んだ。
まるで普段から会話しているかのように、自然と言葉が口からこぼれてくる。
「あの時作って下さったお汁粉、みんなに大好評ですよ」
『んだんだ、嬉すぃことだなや~』
「もっと早くに教えてくれれば良かったのに、どうして内緒にしていたんですか?」
『やんだ、お汁粉んジュースでこしぇだなんて、おしょすくっで言えねぇだ!』
照れ笑うおばあちゃんにつられて、私も笑った。
「私が突然“お汁粉食べたい!”なんて言い出したから、急いで作ってくれたんですよね」
『んだ~、あんまり褒めでくれっがら、缶ジュースに塩振っただけとは言えねがっただ~』
「ふふ、あの時は本当にありがとうございました。お義母さん、私ももうすぐおばあちゃんになるんですよ」
『んだ、めでてぇな~』
「子供を授かったのに圭祐が失業してしまったと思って、心配してくれたんですね」
そう、あの時の私達夫婦みたいに。
だからおばあちゃんは、私がおいしいと言ったお汁粉缶を梨沙ちゃんに飲ませたくて自販機をフィーバーさせたのだろう。
「でも、どうして勇希や愛未、悟史さんにまでお汁粉缶を?」
『ひとりだけ贔屓するわけいがねぇべ』
「ふふふ」
私は一歩、二歩と畳の上を歩いて仏壇の前に立った。湯気を立てている小豆汁とお餅が入ったお椀をさっきお供えしたばかりだ。写真立ての中からこちらを見ているおばあちゃんの顔を眺めながら言った。
「お義母さんみたいにできるかわからないけれど、私も息子のお嫁さんにとって良いお義母さんになれるようにがんばりたいです」
『あんだはなぁんも心配することねぇだ! 由美子っつぁんは、おらの自慢の娘っこだ!』
おばあちゃんの力強い声に、なぜだか私はちょっと泣きそうになってしまった。
「お義母さん、これからも天国から私達を見守ってくれますよね?」
『おらは天国さ居ねぇだよ』
「え? じゃあ今どこに居るんです?」
すん、と洟をすすってスマホの向こうに耳を澄ませた私に、おばあちゃんは温かい声で笑った。
『おらはいっつも、おめ達の側に居るだよ』
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