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『あのさ、ばあちゃんって今どこに居るの?』
「は?」
土曜の昼下がり。部活で学校に行っている高二の息子から掛かってきた電話に目が点になった。
「なに言ってるの、あの世でしょ」
『だよなぁ』
息子はひとり納得したようにうなずいている。なんなの?
「なに、どうかしたの?」
『いやさ、さっきばあちゃんから電話があったんだよ』
「え? 勇希のスマホに?」
『そうそう。すっごい訛っててさぁ、なに言ってるか全然わかんなかった』
「それ間違い電話じゃないの?」
『でも掛かってきた番号、うちの家電だった』
「えぇー?」
私は朝からずっと家に居るけれど、電話なんて誰も掛けていない。
『“じぬほろったぐれぇで落ちこむなや!”って言われたけど、側溝に百円落としたくらい大したことないからって仏壇に言っといてよ。俺そこまでお汁粉好きじゃないし。そんじゃ』
ツー、ツー。通話が切れた。
「……お汁粉?」
首を捻っていると、再びスマホが鳴った。今度は大学生の娘からだ。
『もしもしお母さん? おばあちゃんって、今家に居るの?』
「そんなわけないでしょ」
『だよねー』
「なにかあったの?」
『んー、なんかね、おばあちゃんみたいな人から電話がきたの』
「それホントにおばあちゃんなの?」
『わかんないよー。“おらだ、おら!”って言うから、え、オラオラ詐欺? って思ったよ。それで“まぼい男はいっぺぇ居っがら、失恋ぐれぇで思いつめるでねぇ!”って言われたー』
「愛未、失恋したの?」
『彼氏とは別れたけど、就活でお互い忙しいから自然消滅しただけ。別に落ちこんでないけど、橋の上で景色眺めてたからなんか勘違いしたのかも?』
「身投げするつもりかと?」
そんな馬鹿な。ああでも、おばあちゃんならあり得るかも……ちょっとそそっかしい所あったし。
『とにかくさー、私そんなにお汁粉ばっかりもらっても困るから。お母さんからもお願いしといてくれる? じゃあねー』
ツー、ツー。
「……だから、お汁粉ってなに?」
液晶画面を見つめて呟いていたら、三度スマホが鳴った。東京で働いている一番上の息子だ。
『母さん? 変なこと聞くけど、おばあちゃんってそこに居ないよね?』
「居るわけないでしょ」
『そうだよなぁ』
「もしかして……おばあちゃんを名乗る人から電話が来たの?」
『え、なんでわかったの? いやー、そんなはずないんだけどさ、おばあちゃんそっくりの声で“仕事がねぐだっで、地元さ帰って来たらいがす!”って言われて』
「圭祐、失業したの?」
『違うよ。最近ずっとテレワークで家に居るから、無職だと勘違いしたみたいなんだ。説明したけどよくわかってない様子だった』
「おばあちゃん、そそっかしいから……」
『“うめぇもん食って、力つけてけろ!”って言われたけど、お汁粉好きなのって俺より母さんだよな。あ、ごめん着信だ。じゃ、また』
ツー、ツー。
「またお汁粉……」
一体なんなのかしら?
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