美里さんは常に春花の側にいる

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美里さんは常に春花の側にいる

昼休憩の時間だ。  さっきまで静寂だった教室が嘘のように喧騒に包まれる。  弁当は各々が好きな場所で食べる。違う教室に行く人もいれば、中庭や屋上に行く人もいる。かくゆう本当なら僕も埃臭い視聴覚室で1人、いそいそと食べていたところなのだが、今日はそうもいかない。  校舎の影からこっそりと中庭の方を覗く。  普段からこんなストーカーまがいな事をしているわけではない。今は告白をするために仕方なくやっているのだ。  春花が中庭にあるベンチに腰掛け誰かと楽しそうにサンドイッチを食べている。  春花が誰かと食べている事は想定内だ。問題はそれが誰なのか?だ。校舎の影から顔を半分出して見るが春花の影に隠れていて隣に誰がいるか見えない。  今度は少し身をせりだし隣の人物が誰なのか確かめた。  げっ。  今日に限ってあいつがいるなんて……。  隣にいた人物は烏山美里(からすやまみさと)だった。美里さんと僕は春花と同様幼稚園からの幼馴染み。スカート丈も膝下を守り、規定通り制服を着こなす。そして肩に届かないほどの黒髪に黒縁眼鏡を掛け、いかにも学校の優等生といった風貌だが、実のところウサギの皮を被った狼のような女だ。勉強は確かに得意のようだが兎に角性格が狂暴だ。気に食わないことを言えば、小学生の頃から習っているという、極真空手仕込みの踵落としで脳天をぶち抜かれる。僕は踵を返し今日は告白を諦めようとした……が、何とか思い止まった。  これは妄想だ。怖くない。全ては僕の思い通りになる。  意を決して二人の前に向かった。  途中、美里さんがこちらに気づき、威嚇するようにこちらを睨み付けた。だがそれに臆することなく(嘘。本当は凄く怖い)脚を進める。  二人の前に立って初めて春花が僕の存在に気づいた。「あ、ゆうくん。どうしたの?」 横のからの殺意に満ちた圧がすごい。 「あ、あの、昨日のことで、ちょ、ちょっと」  「はぁ?お前ごときが春花と付き合えるとか思うな!」  春花が反応する前に反応したのは美里さんだった。  それよりも、なんで里美さんは告白するって知ってるのだ。  美里さんは声を荒げて近づくと眼にも止まらぬ速さで中段突きを見事僕のみぞおちにくらわした。  「ぐふぅっ!──」  その場で頭を垂れるようにして倒れた。僕はお腹を抑えながらも上を見ると美里さんが脚を高々と上げ振り下ろす瞬間だった。  あっ死んだ──────!はっ!  ベットから飛び起きると全身から滝のように汗が吹き出していた。  なんて悪夢なんだ。いや悪妄想?  とにかくこれは妄想。妄想なんだ。もっと成功をイメージして……。  でも何でよりにもよって僕が一番苦手としている美里さんが出てきたんだ?  うーん。わからない。確かに苦手意識のせいか普段からかよく見ていた気がするけど。  美里さんも僕と同じで一人を好む性格。春花と話しているところ以外、他人と話している姿を滅多に見ない。お昼も僕と視聴覚室の取り合いになることが多々ある。まぁ美里さんがいる時は譲るから取り合いとは言わないのだが……。  いろいろ考えたが答えは見つからない。  あー考えるのはやめやめ。美里さんの事はとりあえず置いておいて。  再びベットに横になる。  次は必ず成功を導き出してやる。  そう意思を固め再び妄想の世界にトリップしていく。
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