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 絶賛マリッジブルーに罹った私は、考え込んで煮詰まった結果、リストを作ることにした。 『独身の間にしたいこと』  ジェンダーレス、エイジレス、レスだらけの令和の世の中で、という考え方が封建的過ぎるけど、燃え尽きでて真っ白な私(けっしてウェディングドレスの白ではない)には、充分魅力的な計画だった。  独身だから楽しめること。もしくは既婚者の行為として不義なこと。 (……バスケ部の寿くん、今どんな風になったのかな)  不埒な私は、あっさりリストに欲望を記した。  過去に好きだった人を、結婚直前に想う。何と不義なことか。  不倫が日常茶飯事な世の中でも、法的に婚姻関係を結んでいる以上、疚しい気持ちを持ったまま配偶者と暮らすのは如何なものか。  なら、決着をつけようじゃないか。   「で。調べまくって、この店に来た、と」 「まずは寿くんのフルネームでありとあらゆるSNSを検索したの。でも同姓同名しかひっかからなくて」 「……うわー……引くわぁ、香代子ちゃん」 「え? 誰でもやってることなんじゃないの、好きな人で検索かけるって」 「推しのアイドルをるんじゃないんだから、素人っても本名アカウント以外ヒットしないでしょ」 「本名アカウントって少ないよね。で、作戦切り替えて、中学の友達に連絡したの十五年ぶりに! 友達の友達の友達の友達だったかな、遂に寿くんがこのお店で働いている情報をゲット!」 「……その、友達ですらない他人様からの情報聞いて、怯まなかったの?」 「お店の場所と勤務日だけ聞いたから。いざ目的が判明したら、細かいことは気にしないの」  初めて訪れる新宿二丁目の夜、私は一心不乱に目的地の雑居ビルへと急いだ。怖そうなお兄さん達の間をすり抜け、辿り着いた先がピンクの壁紙に囲まれたラブリーな空間で安心したせいもある。  ディズニーランド土産のカチューシャ並に大きいリボンや、造花の髪飾りをしたガーリーな達の中に、寿くんを見つけた。 「……ひょっとして、中学の時同じクラスだった、香代子ちゃん?」  ウエディングドレスと見紛う白ワンピを着た寿莉さんは、頬骨が出っ張らせながら笑顔で私をハグした。
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