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「その猪突猛進っぷりは、燃え尽き症候群たる素質ね」
呆れを通り越し、慈愛に満ちた眼差しで一瞥すると、寿莉さんはおつまみのピーナッツを差し出した。
告白どころか、自分から話しかけることも出来なかった相手から、乾きものを貰う。当時はチョコレートすら贈れなかったのに。
中学三年のバレンタイン前夜。ひやかす母親を台所から追い出し、慣れない手付きでチョコレートを溶かしベタなハート型で冷やし固めた。鼻の奥から毛細血管まで甘い匂いに包まれ、手のひらより大きいハートを、世界最高の出来だとうぬぼれた。
けれど翌日、学校の全女子生徒をメロメロにするバスケ部エースに、渡すどころか近付くことすら出来なかった。放課後、学年一の美人が寿くんと仲良さそうに歩く姿を目撃した。
帰り道、受け取り手を失ったプレゼントの入った学生鞄がやけに重かった。自室でラッピングを剥がすとチョコレートの表面が不格好に歪んでいた。渡さなくて良かった、と思った。
「何よぉ、折角作ってくれたならチョコ受け取ったのに! 今からでももってらっしゃいよ」
「十五年前の手作りチョコが現存してたら怖いでしょ」
「もはや化石ね! それでもあたし受け取るわよ」
「……受け取ってくれるんだ」
「そりゃあ、相手の気持ちが込められてるんだもの」
「……学校中の人気者を遠くから見つめるしか出来なかったのになぁ。石より固いチョコを、受け止めてくれるのかぁ」
過去に挑戦すら出来なかったことをポツリポツリ懺悔する。カウンターに両肘ついて零す私はただの酔っ払いだ。
すると寿莉さんはワンピースの袖口から筋肉隆々の腕を差し出して、私の手を取った。ゴツゴツした感触に目をやると、何万回ボールをついたのだろう、手のひらはマメだらけだった。
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