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「受け入れてあげられなくても、受け止めはするよ。三十歳目前までくすぶってた香代子ちゃんの気持ち」 「……ボールのパスみたいに?」 「香代子ちゃんったら巧いこと言ってぇ。……伝えられない気持ちって、あるよねぇ。あたしも辛かったなぁ。好きな人が毎日そばにいるのに」 「……そうだったんだ」  もし私に告白する勇気があったとしても、寿くんだった頃の寿莉さんは学年一の美女ではなく、きちんと好きな人がいた。結局、この片思いは実らなかったわけだ。  へへへ、とわざと口に出して笑った。 「そうよ、何でも笑っちゃえばいいのよ」  寿莉さんも真っ赤に塗られた唇を大きく開いて笑った。愉快になってきて勢いよくグラスを呷る。 「ちょっと飲みすぎ!」と注意されるのを、ぐわんぐわん回る頭で聴く。  何の為に元・片思いの相手に会いにきたのか分からなくなってきたけれと、独身最後の夜、こんな再会も悪くないかも。  カラランと鳴る鈴の音を心地よく背中で聞いていると、「あら」と寿莉さんは出入り口へ視線を向けた。 「珍しい。先輩がいらしたわ」 「先輩って? てか何でハム?」 「ハムスターに似てるから命名したらしいよ。私が入ったのは三年前で、ちょうど入れ違いでお店辞めていった先輩なの。すっぴんでも超可愛くって人気ナンバーワンだったのに、たった一年で辞めていった伝説の先輩なの!」  三年前と言えば、私が聡と付き合い始め、結婚一直線作戦を決行し出した頃だ。  同時期に一体何があった、寿くんよ。 「どうしたのかしら、しかも普通のサラリーマンの格好で」 「えー、普通って言わないんじゃなかったのぉ? 何、どれどれ」  突然、中学の同級生がのこのこと一人現れたのを寿莉さんは気遣い、店の奥のカウンター端の席に案内してくれた。イスを回転させ、暗がりの中でピンキーでラブリーな部屋を見回す。  出入り口前に、小柄で清潔感のあるスーツ姿が、うさぎ耳のお店のお姉さんときゃっきゃと盛り上がっていた。 「……何で」 「どうしたの、香代子ちゃん?」 「……あれ、彼氏です。明日入籍する予定の、彼氏です」  入籍前夜。再会した初恋相手は、彼女になっていた。  そして、明日婚姻届を出す相手は、元・だった。
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