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「よりによって、ハム先輩がねぇ……」  血中アルコール度数が上昇したはずの体が一気に冷めていく。私は真っ白になる。燃え尽きたんじゃなくて、頭が真っ白になった。 「どうする、香代子ちゃん。結婚相手がこういうお店に縁があったと判明したけど?」 「お願い、匿って!」  カウンターの下へ隠れようとする私に「逃亡犯じゃないんだから」と突っ込みが降ってくる。 「布団に潜り込むハムスターみたいよ。ていうか、何で香代子ちゃんが隠れるの?  やっぱり、こんなお店に来る彼氏――未来の夫は見たくない?」 「……それもあるけど」 「あるけど?」 「独身最後の夜に、このお店にいるのどう説明したらいいものかと。て言うか、ハムスターは私じゃなく、聡のほうだったとか……ははは」 「香代子ちゃん、笑い声が乾いてる」  呆れながらも寿莉さんは声を潜めると、壁際の暗幕カーテンへと私を隠すように、そっと肩を抱いた。大きな手のひらから温もりが伝わる。  中学二年の時、寿くんと同じクラスで球技大会の男女混合チームを組んだ時、神様は一途に見つめるだけの私を不憫に思ったのか、バスケットボールで寿くんと同じチームにしてくれた。  運動音痴でチームの足手まといの私に、バスケ部エースは、居残り練習に付き合ってくれた。 「とにかくボール回して。全部受け止めるから」  パス練習で一瞬だけ触れた大きな手のひらの感覚を、まだ覚えている。 (……優しいなぁ、今でも)  あの時も練習したマメいっぱいの手だった。  カーテンで顔を半分隠しながら聡の動向を見守る。うさぎちゃんなお姉さんとひとしきり盛り上がると、フロア隅の別室へ移動して行った。  一体何だろうと見守っていると、「覚悟しておいてね」と柔らかいタオルケットみたいな寿莉さんの声がかかる。  覚悟って何の? 明日人妻になる覚悟をすっかり忘れた不届き者の私は、十分後に遂に目撃した。  別室からが出てきた。
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