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4
「よりによって、ハム先輩がねぇ……」
血中アルコール度数が上昇したはずの体が一気に冷めていく。私は真っ白になる。燃え尽きたんじゃなくて、頭が真っ白になった。
「どうする、香代子ちゃん。結婚相手がこういうお店に縁があったと判明したけど?」
「お願い、匿って!」
カウンターの下へ隠れようとする私に「逃亡犯じゃないんだから」と突っ込みが降ってくる。
「布団に潜り込むハムスターみたいよ。ていうか、何で香代子ちゃんが隠れるの?
やっぱり、こんなお店に来る彼氏――未来の夫は見たくない?」
「……それもあるけど」
「あるけど?」
「独身最後の夜に、このお店にいるのどう説明したらいいものかと。て言うか、ハムスターは私じゃなく、聡のほうだったとか……ははは」
「香代子ちゃん、笑い声が乾いてる」
呆れながらも寿莉さんは声を潜めると、壁際の暗幕カーテンへと私を隠すように、そっと肩を抱いた。大きな手のひらから温もりが伝わる。
中学二年の時、寿くんと同じクラスで球技大会の男女混合チームを組んだ時、神様は一途に見つめるだけの私を不憫に思ったのか、バスケットボールで寿くんと同じチームにしてくれた。
運動音痴でチームの足手まといの私に、バスケ部エースは、居残り練習に付き合ってくれた。
「とにかくボール回して。全部受け止めるから」
パス練習で一瞬だけ触れた大きな手のひらの感覚を、まだ覚えている。
(……優しいなぁ、今でも)
あの時も練習したマメいっぱいの手だった。
カーテンで顔を半分隠しながら聡の動向を見守る。うさぎちゃんなお姉さんとひとしきり盛り上がると、フロア隅の別室へ移動して行った。
一体何だろうと見守っていると、「覚悟しておいてね」と柔らかいタオルケットみたいな寿莉さんの声がかかる。
覚悟って何の? 明日人妻になる覚悟をすっかり忘れた不届き者の私は、十分後に遂に目撃した。
別室からハムちゃんが出てきた。
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