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ワンピースと同化しそうなほど真っ白な顔で、聡は私を認めると慌ててヘッドドレスを外した。目を伏せるとカールした睫毛が揺れている。
「……言い訳しない。ごめん、香代子」
「それが、本当の聡はなんだね?」
可愛いお姉さん達に見守られるながら、私より長い睫毛がふるふると震え出す。
「やめよう、結婚。……良かった、まだ入籍していなくて! ……香代子のこと、傷つけないで済んだ……」
捨てられた子犬みたいな聡を見て、ふと前にもこんな姿を見たなぁと、思い出した。
三年前。出会ってからすぐ、あっと言う間に私と聡は盛り上がった。スイッチが入ったように同じタイミングで笑い、一緒にいるだけで落ち着いた。
お付き合いを受け入れた夜、聡は長い睫毛を震わせながら告白した。
「……断られるかと思った」
「何で?」
「見た目がこんなだから、……俺は恋愛対象にならないんじゃないかって」
男らしさに敏感だった聡は、自分が責任を持って家庭を持てる自信が付くまでプロポーズしないとも言った。
「香代子のこと、女としてだけじゃなく、人としても好きだよ」
「何それー?」
ずっと結婚にこだわり続け、攻防を繰り広げる私をそんな風に言ってくれていた。
(こだわってたのは、私だけじゃなかったんだね)
何だか、私は急に楽になった。
「聡……ハムちゃん。私の方が不埒だから、安心して?」
オロオロしながらも横から寿莉さんに「え、どういう意味?」と突っ込まれる。
振り向いて私は言った。
「普通とか言う、ツマンナイ三十代にもツマンナイ人妻にもなりたくないんだ。私」
「……言うわね」
私の出したパスに、満更でもなさそうな微笑みが返ってくる。
突然お店に乗り込んで来た不届きな私を、クラスメイトだった私を覚えてくれていた人。十五年間のくすぶりを受け止めてくれた人。
さよなら、好きだった人。
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