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「今どこなんですかね」
ああ、私が甘かった。
「コンビニの前でも既に三十分待ってるんですけども?マリーさん?」
『……ごめんなさい』
「何が原因なのよ、今度は」
『道に迷っちゃって』
「ご近所で何やってんの?」
お前な、と頭を抱えるしかない。道に迷ったというのが本当なら責められないが(なんせマリーは実際方向音痴である)、だからって自分の家の近くで迷子になるのはどうなのだろう。しかも、またしても三十分人を待たせた上での電話である。もっと早く連絡をよこせ、と思う自分はまったく悪くないのではなかろうか。
「ゴーグルマップ使いなよ、スマホ持ってんだからさあ」
しかし近年は、そうそう迷うこともなくなったはずだ。なんせありがたい文明の利器がある。私もあまり道が得意な方ではないが、それでも困った時はネットとゴーグルマップで大抵の道はサーチできるものだ。向こうが今だにガラケー民ならまだしも、スマホを持っているのだからできることは多いはずだというのに。
『位置情報が直せないの!使えないの!』
向こうからは、すんすんと鼻を鳴らす声が聞こえてくる。
『なんでか私、仙台にいることになってるう……』
「ズレすぎじゃない?関東ですらないって逆にすごくない?」
『この間はモスクワだった』
「日本でさえなくなるとかあんの!?」
駄目だ、ツッコミだしたらキリがない。できることならきちんと位置情報を修正できるやり方を教えたいところだが、生憎私も機会に明るい方ではなかった。生粋の機械音痴を相手に、電話だけで的確な指示を出すことほど難しいことはない。とうか、そもそも電話してたら他のアプリなんか使えないのだから無理ゲーである。
これは本気で自分の方が迎えに行くしかないのか、と私は頭痛を覚えつつあった。
『えっと、●●神社の前まで来てくれると嬉しいんだけど……』
ものすごく申し訳なさそうに、マリーが続ける。
『道、わかる?優香、大丈夫?』
「それ、私の台詞だからね?」
いやほんと、大丈夫かこいつ。私は呆れてもはや言葉も出なかった。
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