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「ついたけど……あんた今どこ?」
何だこの神社。私は眉をひそめてその場所を見た。赤い鳥居は、ツタがからみついているわ、コケむしているわと散々な有様になっている。石畳は手入れされていないのかあちこち剥がれているし、雑木林の方も雑草が生え放題な有様だ。
いかにもホラーなスポットである。こんなところがあるなんて知らなかった。オカルト研究会メンバーとしては、少々興味が湧く場所ではあるのだが。
「ていうか、駅からどんどん離れてるんだけど。……私てっきり、映画とかレストランに行くつもりなのかと思ってたんだけど、いいわけ?すごく遠回りしてる予感しかしないんですが」
『それは大丈夫。優香に見せたいものはそれじゃないし。てか、その神社もなかなか面白そうな場所でしょ。優香、そういうところ好きだよね?』
「よーくご存知で。……でも祀る人がいなくなった神社が放置されてるのって、結構ヤバいんだけどね。社務所も誰もいないっぽいし」
恐る恐る鳥居をくぐって歩いていく。ぼこぼこの石畳で転ばないように、細心の注意を払う必要があった。湿気もすごいのか、コケであちこちぬるついているから余計に、である。ヒールの高いサンダルなんて履いて来なければ良かったかな、と思っても既に時遅しなのだが。
『私もあんまり知らないんだけどね。神社が問題なんじゃなくて、神社に来たお客さんが問題で、なんか神社そのものがなくなっちゃった?みたいな話は聞いたことあるなあ』
電話の向こうで、マリーが暢気に言う。
『宗教学のレポートにでも書いてみたら?オバケやら祟りやらって考え方は、日本独自のものでしょ。私の母国じゃ、祟りを成す幽霊って大抵が悪魔扱いになっちゃうし』
「あーそういう話も聞いたことがあるような、ないような」
『そうそう。……あ、私もうすぐ近くに来てるよ。その神社の本殿の裏に道があるから、そこからまっすぐ雑木林を抜けてくれると嬉しいな。そこの家の前で待ってるから』
「はいはい」
結局お前から迎えに来るつもりはゼロなのね、と私はため息とともに電話を切った。そんなに近くに来ているのならそっちから来るのが誠意ではないか、と。まあ、天然ボッケボケを相手に、そんな説教をしたところで大した意味などないのかもしれないが。
言われた通り、今にも屋根が落ちてきそうな本殿の横を潜り抜け、横倒しになっているお地蔵様に不気味なものを感じつつも裏の道を進んで行くことにする。表と同様に石畳の道が続いていたが、表以上に雑草ボーボーで歩きにくかった。両隣の雑木林はそれはそれは自由に伸び放題といった有様で、背の高い木々が鬱蒼と葉を生い茂らせている。夏の昼間だというのに、やけに暗いし不気味だ。
オカルトは好きだが、それでもこの道を長く歩くのはちょっと勇気がいる。マリーは私が好きだろうと思って、わざわざこのルートを通らせているのかもしれないが。
――急ご。
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