今どこですか?

1/2
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ

今どこですか?

『ちょっと、今何処にいるの?』  電話の向こう。地を這うような妻の声に、俺は震えあがった。ある意味今、一番恐れていた質問だったと言っても過言ではない。  どうしよう、なんて説明すればいい? 「あら、どうしたのそんな青い顔をして?」 「ひっ!?い、いえ何でも!」  色っぽい声を後ろからかけられて、慌てて俺はスマホを手で覆った。今の声が、妻に聞こえていないことを祈る。  なんせ彼女は自分を心から信じてくれていたはずだ。  浮気対策の、位置情報アプリなんて入れていない。そんなことになるなんて想定もしていなかったはずである。  身を屈めて、どうにか壁に寄りかかって、深呼吸。  考えるのだ、この状況が妻にバレないようにするにはどうすればいいのか。どうやって誤魔化せばいいのかを。考えろ、考えろ、考えろ! 『なに、今の声?……本当は何処にいるの、正直に言いなさいよ!』  無理でした。  がっつり声聞こえてました。  俺は頭を抱えて呻いた。絶対に妻は怒るだろう。というか激怒するだろう。ずっと信じて待っていたのに、と彼女の立場なら思うのは当然だ、なんせ二時間も連絡を入れなかったのだから。  だが、きっと彼女は全てを見抜いている。こうなったら帰った時に土下座すること前提で、全てを話すしかない。 「ご、ごめん……雪南(ゆきな)」  俺はもう半泣きで、一言。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!