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今どこですか?
『ちょっと、今何処にいるの?』
電話の向こう。地を這うような妻の声に、俺は震えあがった。ある意味今、一番恐れていた質問だったと言っても過言ではない。
どうしよう、なんて説明すればいい?
「あら、どうしたのそんな青い顔をして?」
「ひっ!?い、いえ何でも!」
色っぽい声を後ろからかけられて、慌てて俺はスマホを手で覆った。今の声が、妻に聞こえていないことを祈る。
なんせ彼女は自分を心から信じてくれていたはずだ。
浮気対策の、位置情報アプリなんて入れていない。そんなことになるなんて想定もしていなかったはずである。
身を屈めて、どうにか壁に寄りかかって、深呼吸。
考えるのだ、この状況が妻にバレないようにするにはどうすればいいのか。どうやって誤魔化せばいいのかを。考えろ、考えろ、考えろ!
『なに、今の声?……本当は何処にいるの、正直に言いなさいよ!』
無理でした。
がっつり声聞こえてました。
俺は頭を抱えて呻いた。絶対に妻は怒るだろう。というか激怒するだろう。ずっと信じて待っていたのに、と彼女の立場なら思うのは当然だ、なんせ二時間も連絡を入れなかったのだから。
だが、きっと彼女は全てを見抜いている。こうなったら帰った時に土下座すること前提で、全てを話すしかない。
「ご、ごめん……雪南」
俺はもう半泣きで、一言。
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