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唸り声を上げ、妖獣が黒い光線を放つ。少女がか弱く何かを呟き、意識を失った。
助けなければ。
「そ、その子を離すんだ!」
妖獣の黄色い目が僕を捉える。邪悪な瞳に見入られた途端、重要なことに気がついた。
僕は戦い方を知らない。正義感を振りかざすようなタイプでもないだろうに、何故こんな無謀なことをしてしまったんだ?
尻込みしていると人魚のような美しいヒレの生えたマナティが現れた。
「私の力を使いなさい。あれくらいの妖獣なら私の泡で押さえつけられる」
アルスとは別の妖霊? 二羽目なんているはずないと思いつつ今は従うことにした。
鳥足を振り上げ、岩の段差を一飛びで飛びおりた。
一歩、二歩。
降りかかる妖獣の熱い息を払って彼女の元へ辿り着く。くすんだ青色の牙が振りかぶってきた。
僕は夢中で叫んだ。
「水の姫マルガリータよ、美しの勾玉を掲げよ」
巨大な泡が現れ、妖獣を包み込んだ。弾力性の高い壁を突き破ろうと奮闘している間に僕は少女のそばで膝をついた。
鼻筋の通った美しい顔が乱れた髪から覗いていた。なんと華奢な肩だろう。
ガラス細工のような細い体に、僕の心は無性に掻き立てられた。
今、彼女を助けられるのは僕しかいない。
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