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彼女をしっかり抱き上げ、走り出した。が、すぐに足が止まった。
逃げるといっても一体どこへ? 見たところ、この不毛な岩場に身を隠せるような場所はない。
どうしようか迷っている間に妖獣は泡を食い破って脱出してしまった。
怒りの雄叫びを上げ、こちらへ向かってきた。ああ、どうすれば。
キュン。
超音波のような声に振り返ると、丸い物をくわえた小動物がこちらを凝視していた。
見た目はただの紫色のウサギだが、その体からは近寄りがたいほどの強烈な妖力が放たれているのがわかった。アメジストの目をパチクリとさせ、誘うように垂れた長い耳を振った。
救いの道を示そうとしているのか、それとも罠か。
小動物がもう一声鳴き、姿を消した。あそこに穴があるようだ。
「信じるぞ……」
アルスの力で羽の塊を作り出し、妖獣に投げつけて視界を奪う。その隙に小動物の背中を追いかけた。
「俺は結界も張れる。穴に入ったら俺を呼べ」
「天使アルスよ、僕を守れ」
穴に滑り込み、アルスの力で見えない壁を張った。妖獣は悔しそうに見えない壁を引っ掻いては、魔法のもたらす痛みに悶えていた。
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