19人が本棚に入れています
本棚に追加
怒りの咆哮、強烈な雷が放たれる。地鳴りで壁から小石がバラバラと散った。
それでも、結界にはヒビ一つ入らなかった。
気が済むまで殴り続けた後、妖獣はようやく引いていった。
「ありがとう」
「それより、早くフロースにも癒しの羽を与えてやりなよ。軽めの電撃を食らってるっぽいし」
「フロース?」
「その子の名さ。本当に何もかも忘れてしまったんだな」
僕はフロースという名の少女に視線を落とした。さっきも思ったが見ればとても可憐な顔立ちをしている。
それはもう、一目見ただけで心が震えるほどに。
一体どんな人なのか、僕とはどんな関係だったのか。
記憶喪失の僕を嫌いませんようにと祈り、呪文を唱えた。
「いったたたた……」
長いまつ毛がピクンと反応し、ルビーの目が開かれた。その瞬間、心臓がトクンと胸を打った。
美しい。まるで視線を縫いつけられたかのように、彼女から目が離せなくなる。
知らない人だ。正確には何も思い出せない人。なのに心がある答えを導き出そうとしていた。
きっと僕は、記憶を失う前の僕は、彼女のことがとても好きだったに違いない。
現にこの場で僕は心を奪われてしまったのだから。
最初のコメントを投稿しよう!